第28話 異世界だョ!全員集合
西方大陸の海街テラドマのビーチで昏倒したおれを待っていたのはオーガ=ナーガ帝国が擁する皇宮騎士団であった。彼らはいきなり抜刀しおれたちを連行しようとした。
騎士団A「失礼。フレンダ王女御一行、皇宮まで御同行願います」
アルフォード「やめろ貴様ら、私を誰だと思っている!」
騎士団A「アルフォード殿下、この者たちは不法入国にございます」
ザザ「え」
フレンダ「アルフォード! あなた、入国許可を取っていませんでしたの?」
アルフォード「あ、いや、それは…いやしかし私は皇子だぞ! この者たちはみな私の友人だ、何も問題あるまい!」
騎士団B「摂政宮(せっしょうのみや)様が連行せよと申されてます」
アルフォード「エリーザ姉上か、あの石頭め!」
ミキオ「面倒くさい、こんなの無視して逆召喚で王都フルマティに帰ろう。おれはもう回復している」
フレンダ「待ってミキオ、このままわたくしたちが帰れば国同士でもっと面倒な話になります。わたくしが話をつけますから一旦皇宮に参りましょう」
騎士団A「ではこちらの馬車へ」
ミキオ「いやこんな馬車で皇宮まで移動って、何時間かかるんだ。おれが逆召喚で皇宮まで行ってその後にこの連中を召喚した方が早い」
騎士団B「え、いや、我々は」
ミキオ「知らん。後で追って来ればいい」
こうしておれたちは自力でオーガ=ナーガ帝国の帝都トノマにあるアオーラ宮まで連行された。白亜の宮殿と言うに相応しい非常に荘厳な建物である。
エリーザ「頭が高い、控えぬかっ!」
会うなりいきなり女が言ってきた。赤い髪をポニーテールに結んだ眼光鋭い女だ。さっき言っていたアルフォードの姉だろう。皇太女と言うから皇位継承順位1位の次期皇帝というわけだ。いかにも気が強そうな顔だ。
侍従「オーガ=ナーガ帝国皇帝バームローグ・ ド・ブルボニア1世陛下、並びに摂政宮エリーザ・ド・ ブルボニア皇太女殿下にございます」
皇帝「ああ、楽に、楽に。特にそこな召喚士は臣下の礼を取らん男だというのは聞いておるゆえな」
ミキオ「感謝する」
エリーザ「クッ!」
皇帝は70代半ばといったところか。アルフォードの父親の筈だが祖父でもおかしくない容貌だ。中央大陸連合王国のミカズ王と違って老いてはいるが眼がギラついており武人あがりといった感じだ。さすがに当代で帝国を築いた男は違う。
エリーザ「フレンダ王女、貴殿は召喚士の魔術によって入国の手続きをせぬままこの帝国に無断で入られた、何か申し開きがおありか」
フレンダ「こちらの手違いですわ。非礼をお詫び致します。しかし我ら中央大陸連合王国とこちらのオーガ=ナーガ帝国は友邦でありこのような物々しい関係ではないはずですが」
エリーザ「貴殿は事の重大さをおわかりになられていない。王族の方が騎士や召喚士を連れて他国の領土に堂々と潜入されたのだぞ? 侵略行為と取られてもおかしくない」
フレンダ「そんな…!」
アルフォード「姉上、彼女らは私の友人だ。私が友人を海遊びに誘った、それだけなのです」
エリーザ「そちは黙っておれ!」
皇帝「まあ、まあ、まあ…時にそこな召喚士は異世界から来たとか。その武勇、伝え聞いておる。どうじゃ、我に仕えぬか。俸給も領土も望みのままぞ」
ミキオ「興味ないな。誰かに仕えるくらいなら自分で国を作る」
エリーザ「貴様、無礼であるぞ!」
ミキオ「お前、さっきから聞いていれば随分頭の硬い女だな。イライラしてばかりで笑ったことがないんじゃないのか」
エリーザ「下郎、私を愚弄するか!」
皇帝「ぬっふっふっ、良かろう。ならば召喚士、そこなエリーザを笑わせてみよ。この鉄面皮を見事崩してみせたら今回の件、不問と致そう」
エリーザ「陛下、お戯れを!」
ミキオ「いいだろう。講堂を貸して頂こう」
皇帝「あいわかった。ただし果たせねばそちは我が帝国に仕えてもらうぞ」
おれたちは下準備のため宮殿内の講堂に向かった。
ミキオ「アルフォード、お前の親父なかなかの狸だな」
アルフォード「す、すまん!」
ザザ「どうなってんだ、お前の家族!」
ヒッシー「でもミキティ、あのお姉ちゃんを笑わせるって、どうするにゃ。歴代M-1チャンピオンでも召喚する?」
ミキオ「天下万人、どんな国の人でも必ず笑わせることのできるグループがいる。おれは彼ら以上に面白いグループを知らない」
皇宮内の講堂に皇帝、皇太女エリーザらが集まってきたのでおれは舞台にサモンカードを置き、説明に入った。
ミキオ「これから召喚する方々はザ・ドリフターズという。元はコミックバンドだがコントに転向したちまちお茶の間の人気者となった。今回は1979年、志村さんが加入して人気爆発し脂の乗り切った頃から来て頂く」
エリーザ「早くやれ。どのみち私は絶対に笑わぬぞ」
ミキオ「エル・ビドォ・ シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、ザ・ドリフターズ!」
紫色の炎が噴き上がり、中からいかりや長介、高木ブー、加藤茶、仲本工事、志村けんの5人となんと既に脱退してる筈の荒井注までが出現する。長さんが教師、他5人が生徒役の姿だ。つまりこれは「国語算数理科社会」という、おなじみの小学校コントなのである。おじさん、特に当時51歳の荒井注さんが小学生の格好をしているというだけでもう面白い。
いかりや「オイッスー! なんだ元気がないな、はいもう一丁、オイッスー!」
48歳の長さんが舞台に向かって言う。つまりこれはコール&レスポンスなのである。
侍従「殿下、お答えになられたほうが」
エリーザ「お、オイッス」
いかりや「まあいいでしょう。みんな宿題はやったかな? もう授業が始まる時間なんだが、加藤と志村が来てないな」
舞台上手(かみて=向かって右側)から加藤さんが走ってくる。もうその走り方だけで相当面白い。
いかりや「遅刻だよ、加藤!」
加藤茶「ヒッキシン!ヒッキシン!ヒッキシン!」
クシャミを誇張した加藤さんのギャグである。
いかりや「止めろ、馬鹿!」
長さんがハンドメガホンで加藤さんの頭を叩くと、ぷぅ〜という屁のSEが響き渡る。
皇帝「わはは、屁をこきよった!」
侍従「ちと下品ですな」
エリーザは相変わらず仏頂面だが、口元が緩んでいるようにも見える。いけるか? 舞台上手から志村さんがゆったりとやってきた。
志村「おやじ、砂肝3本、塩で」
いかりや「飲み屋じゃないんだよ、馬鹿!」
長さんのメガホンが炸裂する。実にキレがいい。ツッコミとして相当に優秀だ。あまり言及されないが長さんは浜田雅功や小峠英二、アンタッチャブル柴田に並ぶツッコミ名人だと思う。エリーザがウププと吹き出しそうになった気がするが、気のせいか?
いかりや「ではこの問題わかる人」
ハイハイと勢い良く生徒全員が挙手する。
いかりや「ハイでは志村君」
志村「わかりません」
全員ずっこける。長さんなどは教壇の机の天板がバシンと跳ね上がって顔を打っている。エリーザは既に頬を膨らませ笑いを我慢している感じだ。意外というか、結構ツボが浅いタイプじゃないのか?
いかりや「えー英語で月曜日のことをマンデーと言います。では火曜日は?」
またしてもハイハイと全員が勢い良く挙手する。
いかりや「では志村君」
志村「ちんデー」
全員がずっこける。これは酷い。酷い下ネタが出た。こんなので笑う女は相当ゲスいだろ…と思ってエリーザを見たら顔を伏せて体を震わせている。これもう笑ってるんじゃないのか。
志村「マンデーがあるんだから当然ちんデーもあるんだよな」
志村さんが後ろを向いて仲本さんや高木さんに説明していると背後から長さんがメガホンを上段に構えて寄ってくる。
エリーザ「シムラ、後ろうしろ!」
70年代、80年代の子供たちが何度言ったであろうこのセリフを皇太女エリーザが思わず口にした。相当入り込んでいるなコイツ。志村さんは声援を聞こえないフリをして普通に長さんに引っぱたかれた。
いかりや「真面目にやれ! じゃあ加藤、前に出て答えなさい」
加藤さんが前に出ると「ヒッキシン」とクシャミをする。出た、テンドン。そしてそのクシャミのタイミングで履いていた半ズボンがずり落ちた。下には作り物の子供の男性器を付けている。
いかりや「何やってんだ、馬鹿!」
エリーザは顔を真っ赤にさせ口に手を当ててプププ…と笑いを堪えていた。いやこれ堪えきれてるか? はっきり笑ってるような気もするが。ずいぶん下ネタに弱いタイプなんだな。
その後、仲本さんの学習院大学出てるギャグやブーさんの寝てるギャグ、荒井注さんのなんだバカヤロウなどのほのぼのしたギャグもあったりして「盆回り」が鳴りドリフの面々はタイムアップとなり消えていった。去り際も実に紳士である。おれの知り合いにムーブメント・フロム・アキラという男がいるが彼の叔母さんが会津若松のホテルに勤めていた頃にドリフの面々が宿泊に来たそうで、皆さん大変に紳士で親しみ易く、チップもはずんでくれたと聞く。
エリーザ「ハハハハハ! 私の勝ちだな、召喚士! 異世界のお笑いとはこの程度のものか!!」
侍従「あっ…」
アルフォード「あっ…」
ミキオ「いま笑ったからお前の負けだ」
エリーザ「あっ…」
ミキオ「さて、皇太女殿下にもひと笑いして頂けたし、これで放免でよろしいな? 皇帝」
皇帝「召喚士ミキオ・ツジムラ、天晴である。無断入国の件は不問と致す。エリーザ、この者たちに宴席を設けよ!!」
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