オーガ=ナーガ帝国編

第27話 ドキッ!水着だらけの召喚大会

 異世界10日め。おれと王女フレンダ、影騎士、ギャルエルフのザザ、寿司職人シンノス、前世からの友人ヒッシーの6人は西方大陸オーガ=ナーガ帝国のテラドマという海街に来ていた。女子二人がリゾートビーチに行きたいと言うので“逆召喚”で連れてきてやったのだ。オーガ=ナーガに行くことは帝国皇子アルフォードには伝えてあり、先程合流した形だ。集合場所の王宮で着替えてから逆召喚で来たので我々は既に水着である。女子二人の水着姿に皇子アルフォードがさっそく鼻の下を伸ばしている。


アルフォード「いや御両人とも何と言うか、まぶしいな! 目のやり場に困るぞ!」


ザザ「気をつけろよ皇子、今の時代はそういうのもセクハラになるからな」


フレンダ「気持ち悪いですわ」


アルフォード「きっきき気持ち悪い…この私が、気持ち悪い…」


 うむ、これはこの時代に女性に言ってはならない言葉である。classの“夏の日の1993”という曲があって、さわやかな曲調で名曲と称えられているが歌詞の内容としては普通の女だと思っていたけど水着姿は別人のようなプロポーションで好きになってしまったという、そういうスケベ男目線の歌詞なのである。したがってメロディはともかく歌詞は今の時代にはちっとも感動できない曲となってしまった。それと同様である。


ミキオ「アルフォード、お詫びに何か奢れ」


アルフォード「お、おう! 何でも奢るぞ、何がいい?」


 見ると海の家が軒を並べており、店頭の鉄板で焼きそばを焼いている。これだ、日本の海の家とちっとも変わらん。焼きそばって、この直射日光が差して暑い砂浜でアツアツの焼きそば食いたいか? おれには理解できない世界だ。このシチュエーションで食べたいものなんてアイス系かカキ氷の2択しかない。ソフトクリームはすぐ溶けるし、カキ氷は基本的に氷を削っただけのものなのであまりに高額だと理性的に許せない部分がある。


ミキオ「消去法で棒アイスだな」


アルフォード「消去法じゃなく積極的に選べ! ご婦人、アイスを7本」


 海の家の店員「ありゃ、お兄ちゃんどっかで見た顔だと思ったらアルフォード皇子だね、焼きイカおまけしとくよ」


アルフォード「いや、気安い! 皇子だぞ私、いいけど!」


 現在、このテラドマのビーチは気温28度。暑すぎず波も穏やか風もさわやかで非常に過ごしやすい。アイスもうまい。難と言えばやや混んでいるところくらいか。


ミキオ「いいビーチだな」


アルフォード「だろう。我が帝国でも最高のビーチだ。来月には花火大会もあるぞ」


アルフォードが腰に手をあて佇んでいると、後ろから子供が寄ってきた。


子供A「あっ、アルフォード皇子だ!」


子供B「いえーい、バーカバーカ!」


アルフォード「ええい、あっちへ行け!」


 あいつの母国でのナメられっぷりは凄いな。もう狩野英孝くらいのレベルじゃないか。帝国ってこんなにもユルいものなのか。


 しかし前世では東大の大学院にいてアパートにも帰らず来る日も来る日も研究室で寝泊まりしていたおれが今は異世界で異性も含めた友人らと海に遊びに来ている。信じられんな、これじゃまるでおれ陽キャじゃないか。そんなことを考えていたら寿司職人のシンノスから声をかけられた。


シンノス「旦那、姐さんたち助けてやんなよ。あの二人さっきからナンパされまくりだぜ」


ヒッシー「美人の褐色ギャルと清楚お嬢様がペアで揃ってたらそうなるにゃ〜」


 女子二人の方を見ると今まさにナンパされていた。断ってはいるが、土地柄なのか妙にしつこく絡まれている。と言うかよく見るとナンパの行列待ちができている。


ミキオ「あれをさばくのは相当に鬱陶しいな…影騎士はどうした、まさにあいつの仕事じゃないのか」


ヒッシー「鎧が暑いからって日陰に引っ込んでるニャ」


ミキオ「仕方ない…ヒッシー、お前の好きそうな召喚で行くぞ」


ヒッシー「にゃ?」


ミキオ「エル・ビドォ・ シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、アグネス・ラム、かとうれいこ、シェイプUPガールズ、優香、リア・ディゾン、紗綾!」


ヒッシー「おー!」


 アグネス・ラムは70年代、かとうれいこは80年代、シェイプUPガールズは90年代前半、優香は90年代後半、リア・ディゾンは2000年代、紗綾は2010年代から。各時代で日本を席巻したグラビアクイーンたちであり、それぞれグラビア仕事全盛期からの召喚だ。


 アグネス・ラムはハワイ出身だが日本史上初のグラビアアイドルとされる。ハワイ先住民とアジア系のハーフでありアルカイックな微笑みと小麦色の肌が魅力的。


 かとうれいこは柔和な笑顔で豊満、グラビアアイドルという存在を定着させた。


 シェイプUPガールズはC.C.ガールズ以降のセクシーガールズ系の決定版とも言うべき存在で、4人全員が健康的な美貌と迫力のボディライン。中島史恵はなんと今も現役でグラビアを飾っている。


 優香は均整の取れた美ボディで鮮烈なデビューをかざった。“癒し系”元祖とされる。


 リア・ディゾンはグラビア界の黒船と呼ばれた圧巻のビジュアル。


 紗綾はなんと弱冠11歳にしてグラビアデビューし、日本のみならず海外でも話題を呼んだ。


 もちろん皆さん水着での召喚であり、非常にナイスバディで魅力的だ。武井壮が「グラビアアイドルは日本独自の文化だ」と言っていたが、わかる気もする。海外ではプレイメイトなどがそれに当たるがすぐ全裸になってしまい、情緒というものがない。水着までだから健康的で良いのだ。


ヒッシー「あ〜みんな懐かしいにゃ。変な表現かもだけど、何か心の故郷って感じがするよ」


アルフォード「なんだこれは、天使か!女神か!異世界の女性というのはこんなにも美しいのか!」


シンノス「うお〜うお〜祭りっスね!」


 歴代グラビアクイーンたちの周りにはあっという間に人だかりができ、フレンダとザザの周りには誰もいなくなった。


ザザ「…結果、いいんだけど何かムカつくな」


フレンダ「まあ、これで静かにビーチを楽しめるんだから良しですの」


 えらいものでこの9人のグラビアクイーンたちのレベルになるとさすがに誰もナンパもしてこない。群衆たちも遠巻きに眺めて「ヤベー」とか「たまんねーな」とか言ってるレベルだ。本物の放つオーラに気圧されているのだろう。9人のグラビアクイーンは楽しげにビーチバレーなどをやっていたが、急にアグネス・ラムが真顔になって海を見つめて言った。


アグネスラム「大変デス! 何か、危険迫ってマス!」


 突然、アグネスが動揺し始めた。自然と共に生きたハワイ先住民の血が察知したのだろうか、おれの神与特性のひとつである危機感知センサーで広範囲を調べてみたら沖の方から大量の魚群が海岸に向かって来ている。


ミキオ「妖精、あの魚群は」


クロロン「キラーフィッシュだね。獰猛な肉食魚で人間にも食らいつくよ」


ミキオ「みんな、早く海から出ろ、キラーフィッシュの群れが来るぞ」


影騎士「キラーフィッシュだと!?」


アルフォード「なんでこんな静かなビーチに? 喰われるぞ! 早く上がれ、早く!」


シンノス「あそこに溺れてる子供がいるっスよ!」


 シンノスの声を聞いてシェイプUPガールズの梶原真弓さんが躊躇せずに海に飛び込んで行った。彼女は水泳ジュニアオリンピックの強化選手として出場した経験があるのだ。おれは赤のサモンカードを取り出した。


ミキオ「数は多そうだが、やるしかないな。おれがMP切れで倒れたら介抱頼むぞ。エル・ビドォ・ シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、この半径1kmのキラーフィッシュ!」


 砂浜に置いたカードの魔法陣から紫色の炎が高く噴きあがり、中から1000尾あまりの魚が出現し、ぼとぼとと砂浜に落ちていった。ピラニアに似ているが大きさは鰤ほどもある。危機は回避できたが一挙大量召喚によるMPの大量消費でおれは猛烈な疲労感と睡魔に襲われ砂浜に倒れ込んだ。


ミキオ「シンノス…この魚、寿司ネタになるか…」


シンノス「いや、ダメだよ旦那。キラーフィッシュは身がグズグズで食えたもんじゃないんだ。ポイッと捨てるしかない」


リア・ディゾン「ポイしないでネ」


シンノス「へっ!?」


リア・ディゾン「ポイしないで」


ヒッシー「板さん、この人はその言葉に敏感になってるんだニャ」


シンノス「は、はいっ、じゃあなんか昆布締めでも試してみるッス」


 リア・ディゾンはにっこりと笑い、タイムアップとなりグラビアクイーンたちの姿もこの異世界から消えて行った。と同時にけたたましい足音と鎧の金属音がビーチに訪れ、突如抜刀して我々を包囲していった。オーガ=ナーガ帝国の皇宮騎士団である。


騎士団A「失礼。フレンダ王女御一行、皇宮まで御同行願います」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る