第13話 カフェで千利休の茶を飲む
アルフォード「う、ウーム…むにゃむにゃ…レズンザンド兄、寝屁をするな…」
王宮の前でブルース・リーに一撃でのされ昏倒していたアルフォード皇子がそんな寝言を言っていた。
ミキオ「おい、起きろ。なんだその寝言は」
おれはアルフォードの肩口を小突いてやった。
アルフォード「…ん、私は一体何を…ここは?」
ミキオ「ここは王都フルマティのカフェだ。お前は李師父にのされて今まで眠ってたんだよ」
アルフォード「はっ、そう言えば貴様はハイエストサモナー! おのれ私をこんなところに連れてきてどうする気だ!!」
アルフォードが剣の柄に手をかけ立ち膝となったがおれはまったく動じない。
ミキオ「どうする気もないが、まあ放っとくのも何だと思ってな。一旦落ち着いてお茶でも飲め。千利休の茶なんてそうそう飲めないぞ」
おれの横ではさっき召喚した千利休がお茶を点ててくれている。あの時代の日本人とは思えないほどの長身で漆黒の着物と頭巾。風貌は柔和だがまったくの仏頂面で表情を見せない。
千利休「さ、まずは一服」
利休のオーラに気圧されたのか、アルフォードは正座となり背筋を伸ばし、差し出された利休好みの黒茶碗を受け取った。
アルフォード「センノリキュー…只者ではないな、この男…苦い…苦いが美味い、なんと不思議な味だ…」
店員「お客様、持ち込みは困ります」
カフェの店員がそう言ってきたがおれが片手で制した。
ミキオ「すぐ終わるんで」
フレンダ「アルフォード、わたくしも今までこのお茶を頂いていたのですわ。美味しいでしょう、この泡が味をまろやかにしているのです」
フレンダにそう言われて利休は仏頂面だが、口元がやや緩んだようにも見える。
ミキオ「さっきも言ったが、誤解がある。おれはフレンダとの婚姻など了承してはいない」
アルフォード「何だと?」
ミキオ「こいつは勢いで結婚などと口にしたかもしれないが、おれたちは出会ったばかりで好きも嫌いもない。スピード婚はスピード離婚に繋がる。おれはそういう夫婦をたくさん見てきた」
口にはしないがおれの脳裏にはいろんな芸能人元カップルが浮かんでいた。アレとか、アレとか。
ミキオ「万物のエネルギーの総量は決まっている。急激に燃え上がった恋は冷めるのも早い。おれは恋愛に興味はないが、するなら時間をかけて双方が好きになるまで待ちたい」
フレンダ「わたくしも同じことを言われました。アルフォード、親同士が決めた婚約話など解消しましょう。貴方がわたくしのことを好きならば待てる筈です、わたくしがこの召喚士を待てるように」
…茶を噴き出しそうになった。サラッと言うなこの女は。恋愛など興味がないと言っているのに…ああ面倒くさい。異世界ってなんて面倒くさいんだろう。もう日本に転生したい。
フレンダ「ま、機が熟するまでは友達同士、三角関係ですわね」
フレンダが言葉を続けたが、その三角におれを入れるな。二角で勝手にやっていろと言いたい。
千利休「一期一会と申しましてな。ひとの出逢いというものはその一瞬一瞬が大切なものです。貴方もせっかくこの女人に出逢えたのだから、貴方自身が好かれる努力をなされよ」
利休がいいことを言ってくれた。さすがは茶だけで天下人と渡り合った男、言葉に重みがある。
アルフォード「…なるほど、確かにこの御仁の茶は美味い、気分も落ち着いた。話も理解できた。フレンダと友人関係になるのも悪くない…」
アルフォードは茶をぐいっと飲み干した。
アルフォード「だが!この私のプライドはどうなる! 帝国の皇子、帝位継承順位3番目の御曹司だぞ!! それがたかが召喚士にこうも虚仮にされたとあっては父上、皇帝陛下に顔向けができんではないかぁぁっっ!!!!」
アルフォードが立ち上がり絶叫した。見た目はいいのになんと見苦しい男だ。見ろ、利休さんも呆れ顔だ。
フレンダ「アルフォード、みっともありませんわ」
お前が言うな、おとといの狂態をもう忘れたのかと言いたかったが、またパニクられても面倒だなと思って黙った。
ミキオ「まあそう騒ぐな。腹も減ったしこれから飯にしないか?」
フレンダ「そうですわ、この王都フルマティは海鮮料理が名物なのです」
フレンダが言葉を繋いでくれたがアルフォードは聞く耳持たない。
アルフォード「残念だったな、この私は海鮮料理が嫌いなのだ!!」
残念なのはお前だ、と言いたかったが火に油を注いでも仕方ないのでこれも黙った。
アルフォード「この私をもてなしたいなら海鮮以外のものにしろ! そうだな、麺料理がいい! この私が納得するものが出てこなければ婚約を一方的に破棄されたと皇帝陛下に伝える!!」
フレンダ「それは困りますわ」
当人同士の問題を国の政治問題に持ち込むとは、なんだこの男は。アホの上に小物か。
ミキオ「わかった、麺料理だな。ここじゃ何だ、河岸を変えよう」
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