第14話 異世界で最強のラーメンを喰らう
クロロン「ミキオ、どこへ行くつもり?」
王都フルマティの繁華街を移動中、ふたりの王族がやや離れたタイミングで妖精クロロンが尋ねてきた。
ミキオ「コシヒッカ亭だ。顔がきく店がそこしかない」
クロロン「策があるんだよね? 誰かを召喚するとか」
ミキオ「そうなんだが…これは一種の賭けだな…」
クロロン「え? え? ここでそんな含み持たせる?」
大将「らっしぇい!」
シンノス「お、召喚士の旦那!」
店の扉を開けると大将とシンノスが威勢よく言ってくれた。コシヒッカ亭、王都内の繁華街にある海鮮居酒屋である。
ミキオ「大将、忙しいところ悪いがちょっとだけ板場を貸してくれないか」
大将「使ってくんな。うちの次男坊を鍛えてくれてる旦那に言われちゃ断れねえ」
ミキオ「悪いな」
おっかない顔の大将にそう言われ、おれは連れてきた二人を中に入れた。
大将「お連れさんで?」
ミキオ「ああ、この国の王女フレンダとオーガ=ナーガ帝国の皇子アルフォードだ」
大将「ひ、ひえっ!! こんなむさ苦しい店にようこそ…」
アルフォード「構わん」
フレンダ「本当にむさ苦しい店だわ」
ナチュラルに悪態をつくフレンダ。アルフォードはこいつのどこがそんなに気に入って片想いしてるのだろう。
アルフォード「それで、どんな麺料理を食べさせてくれるのだ」
アルフォードがさっそく切り出してきた。
ミキオ「おれが以前にいた世界には特別な麺料理があってな。見た目も悪く、かなり人を選ぶ味だが、いったん好きになると病みつきになり定期的に食べなくては気がすまなくなる悪魔のような料理。その名も、ラーメン二郎」
フレンダ「ラーメンジロー…」
アルフォード「前振りが長いな、いいからさっさと出せ」
ミキオ「後悔するなよ…エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、山田拓美!」
クロロン「え?」
その一般的には聞き慣れない名前に妖精が思わずおれ以外には聞こえない声を出すと、紫色の炎が噴き上がり中から黄色いTシャツの恰幅のいい中年男が出現した。“総帥”こと山田拓美、イギリス『ガーディアン』紙の「世界で食べるべき50の料理」に選ばれたラーメン二郎の創業者であり三田本店の店長だ。見た目から90年代頃だろうか。脂の乗り切った印象だ。営業中のところを召喚したのだろう、何もオーダーしてないのに既にラーメンを2杯持っている。
山田拓美「ニンニク入れますか?」
アルフォード「え、ニンニク?」
山田さんに唐突に言われアルフォードとフレンダは焦った。若き日の総帥の表情は柔和だが意志の強さがわかる。
ミキオ「この料理は食べる前に“呪文”を言うんだ」
アルフォード「なに、呪文だと? するとこれは魔法料理か!」
やたら興奮するアルフォードを抑えおれは言った。
ミキオ「いいから任せておけ。男の方はニンニクアブラヤサイマシマシカラメ、女の方はニンニクアブラスクナメで」
山田拓美「あいよ」
アルフォード「おおお、本当に呪文だ」
何故か感動するアルフォードの前に1杯ずつラーメンが提供された。丼にモヤシとキャベツからなる“野菜”がこんもりと積まれ、大きい煮豚が2枚並べてある。うどんのように太い麺の上に豚の脂身がかけられており雪のように白い。
山田拓美「はい、ラーメン(小)ふたつね」
アルフォード「これで(小)なのか…」
フレンダ「これは…豚の餌ですの?」
生きる伝説である“総帥”を目の前にしてなんと失礼なことを言うのだろう。
ミキオ「いいから食え、少し混ぜてな」
フォークとスプーンを使って二人はおそるおそる“二郎”を口に入れた。
アルフォード「おおお、なんというゴワゴワ太麺、なんという脂身、なんという量、なんというニンニク臭さ…だがむばい(美味い)!むばすぎる!!」
フレンダ「下品な食べ物だわ、なんて下品なんでしょう、ああ下品。とてもこのわたくしが食べるようなものでは…まあ味はなかなかのようだけど…」
アルフォードもフレンダも夢中になって食べている。人を選ぶ料理ではあるが賭けには成功したようだ。山田総帥は待ってる時間も惜しいといった様相でせわしげに消えていった。代金は日本円の持ち合わせが無いのでこっちの小金貨で勘弁してもらった。
ミキオ「味はどうだ、皇子」
アルフォード「ふ、見ればわかるだろう、この通りだ」
アルフォードは汁まで綺麗に平らげた丼を見せてそう言った。息が半端なくニンニク臭い。
フレンダ「不味くはないけど、いかにも平民の殿方向けといった料理ね」
フレンダはそう言うが、お前もまるっと平らげといて言えた台詞じゃないだろう。ニンニク臭いし。
アルフォード「召喚士、私の負けだな! 約束通りフレンダとは婚約関係を戻し友達から始めさせて頂く。あとはどうにでもしろ!」
アホで珍妙でエキセントリックな奴だと思ったがなかなか爽やかな男じゃないか。ニンニク臭いが。
ミキオ「わかった。今度はおれがオーガ=ナーガに出向く。そこでたっぷりとうまいものを食わせろ」
アルフォード「はっは、食いしん坊だな、召喚士!!」
笑うといっそうニンニク臭い皇子となんだか友情のようなものが芽生えた。
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