56話

第56話

「駿と別れるの。駿に、『好きな娘が、出来た』って。遠回しに

 相手の娘から、言われたんだ」


 楓は前髪をかきあげた。楓のお母さんは、驚いた様子。


「えっ、ウソ。どうして? 楓」


「絶対に別れるから」


「駄目よ。楓」


 楓のお母さんは立ち上がった。楓は、怒った。


「でも、もう別れたから。だって、嘘をついたんだ。嘘をつか

 れるぐらいだったら、別れるべき。『駿は、その程度の心しか

 持ち合わせないという事よ。でも、本当の気持ちを言ってほし

 かった。嘘をつかれるし、隠されるのも、嫌だった。もっと、

 苦しまずに、楽に別れられたのに。でも、心の整理が出来たから

 別れてあげるね。だから、もう二度私に近づかないで』駿に言ったの。

 だから、もう、何も言わないで」


 楓は下を向いた。楓のお母さんは、納得した様子で楓に声を掛けた。


「分かったから。楓」


「あのね、この間、お見舞いに来てくれた宏雪の事だけど……。

 好きって、言われたんだけど。それに、宏雪の幼染みの。

 先輩に、『宏雪の事を考えて』って、言われたの。だから、

 考えてみようと思うんだけど、どう思う? それにね、

 土曜日の昼から一緒に遊びに行こうと思うの」


 楓は楓のお母さんに問いかけた。


「良いじゃないの。前向きで。ねぇ、楓」


 楓のお母さんに笑った。二人は、一晩中、話した。

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