34話

第34話

「あっ、入って、入って、ごめんなさい。ベッドの上で、

 しかも、パジャマの格好で」


 楓は上半身を起こした。宏雪は、楓の部屋に入りながら、

 ドアのノブを持った。


「お邪魔します。楓ちゃん」


「宏雪さん、そこに座って下さい。心配かけてすみません

 でした。ちょっと、具合が悪くなって」

 楓は笑ってごまかす。宏雪は、楓の椅子に座った。


「楓ちゃんのクラスの女の子から、楓ちゃんの住所を教えて

 もらったんだ。それから、午後の授業のノートを預かって

 来たんだ。はい」


「宏雪さん、わざわざ、持ってきてもらってありがとう

 ございます」


 楓は宏雪から、ノートを受け取った。


「言いぬぐいだけど、駿君か愛美ちゃんと、何かあったじゃないか?

 午後から、学校中の噂になっているんだよ」


 宏雪は、それとなく、聞いた。楓は、今にも泣きそうな顔で。


「宏雪さん、今日、愛美ちゃんから、駿と付き合っています。だから、

『駿と別れて下さい』って、言われたんだ。もう一方の駿は、嘘をつくし、

 今日って、何か、最悪なんだ。どうしたらいいか分かんないし」


「そうだったのか。楓ちゃん」


「笑っちゃうでしょ。宏雪さん」


 楓は溢れて出てくる涙を、必死に抑えようとする。


 宏雪は黙ったまま、楓を抱き締めた。楓は泣いて震えている。


「宏雪さん、どうしょう。急に言われても。気持ちが、抑え切れ

 ないよ」


「もう、いいよ。楓ちゃん。言わなくても、分かったから」


 宏雪は慰めた。楓は、宏雪の腕の中で泣き崩れている。


 二人はお互いに黙ったまま、時間だけが過ぎていった。


「宏雪さん、ごめんなさい。ありがとうございます。優しいん

 ですね」


 楓は涙をふきながら、笑った。宏雪は、楓から離れて笑った。


「宏雪さんはやめよう。宏雪で良いから。さぁ、帰る」


「私も、楓で良いよ。うん、分かった。ありがとうございます。

 じゃ、そこまで、送って行くよ」


 ベッドからピョイと出る楓。宏雪は、カバンを取りドアを開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る