28話

第28話

「どうしたの? 楓ちゃん」


「私、彼氏に振れたかも……」


 楓は顔を下に向いたまま、言った。


「どうしてなんだ? 駿が?」


 驚く宏雪。楓は泣きそう声で言った。


「体育館の裏で見てしまった! 愛美ちゃんと

 駿が抱き合っていた。まるで、恋人同士みたいに。

 駿は最近、『様子がおかしいな』って。

『やっぱりね』って思っていた。そういうふうな

 予感はしていたかもしれない。でも、やっぱり

 見たら、頭が混乱して走って逃げた」


「楓ちゃん、違うかもよ。ねぇ、宏雪」


 玲子はテーブルに肘をついた。宏雪もコーヒーを

 飲んだ。


「楓ちゃん、違うと思うんだ。駿が楓ちゃんと別れる

 なんてないよ」


「そうかなぁ。駿は、本気だよ。私には、分かるから」


 楓は一気に、オレンジジュースを飲み干し、立った。


 玲子と宏雪が驚いた。


 宏雪がそっと楓の手を握った。


「楓ちゃん、どうした?」


「もう、遅いから。家に帰りますね。玲子先輩、宏雪さん、

 ありがとうございます。おばさん、オレンジジュース、

 おいしかったです。これで失礼します」


 楓はお金をテーブルに置き、歩き出した。宏雪は、スッーと

 立った。


「送って行くよ。楓ちゃん」


「ううん、宏雪さん、ありがとう。一人で帰りたいから。

 大丈夫よ。玲子先輩、宏雪さんさようなら」


 楓は会釈をして、ドアを開けた。歩いて去った。


(宏雪さん、ごめんなさい。今だけ一人にさせて……)

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