第18話 ロリ配信者、ひよこ隊長

『き、如月さん、いますか·····?』


「はい! 今からお迎えに行きますね!」


 インターホン越しに喋る二人を、俺は見守る。

 これから配信者と会うのだ。


 顔を洗い、パジャマから着替え、朝ご飯を済ませ、歯を磨いて、人を招き入れる準備はできている。·····俺も招き入れられている側なのだけれど。


「にしても、声が幼かったような·····?」


 思ったことをボソッと呟く。


「私より一つ年上ですよ?」


「ひとつ年上かあ·····とし·····うえ·····?」


 木乃花ちゃんは小学六年生なので、中学一年生ということになる。


 またロリかあああ·····!


 いや、ね? 中学生はロリに入りません、みたいなこと言う人もいるけどさ? もう面倒くさいから、俺より年下ならみんなロリってことでいいんじゃないかな?


 そもそも、中学一年生の春なんて、まだほとんど小学生みたいなものだろう。


「お迎え行ってきますね」


「うん。行ってらっしゃい」


 木乃花ちゃんは部屋を飛び出す。

 今回の俺は「1ミリ足りとも微動だにしない」ことを目標に決めていた。

 前回は「一歩も動かない」だったからな。

 人は、常に成長していかなければならない。


 この時間はかなり暇だ。エレベーターが動くのが早いとは言え、数分はかかる。しかも今回は、なぜだかいつもより長い時間に感じてしまった。


「·····ほら、頑張って!」


「嫌ですぅぅ·····! 絶対むり! やだ!」


 という声が聞こえてくる。


「何してんだ·····?」


 俺は「1ミリも微動だにしない」という目標を無視して、二人のところへ向かう。


 ドアを開けるとそこには、座り込む少女と、その子の腕を引っ張る木乃花ちゃんがいた。


「あっ、結城さん。手伝ってください!」


「木乃花ちゃん、これはどういう·····」


「·····ひゃあああああっっっ!!!」


 しゃがみこんでいる女の子が叫ぶ。


「へ·····?」


 何これ。俺って嫌われてんの? ·····でも初対面のはずだし。


「ひよこ隊長さんは、人見知りなんですっ! さっきから怖いって言って、なかなか動かなくって!」


「やだやだやだやだやだやだぁっ!」


「·····」


 元気でよろしい。うん·····。


 ·····何だこの地獄絵図は。見るに堪えない。


「隊長さん、これは君にしかできないお願いなんだ」


 もう、ここは真面目にお願いするしか方法はない。


「だからっ、ゲーム開発に協力してくれませんか!」


 俺は勢いよく頭を下げる。木乃花ちゃんと少女は、急に頭を下げた俺にビックリして、静かになる。


「も、元々、ゲーム作りには、その、協力する、つもりだった·····。でも、こんな、急に人に、会う、こ、ことになるとは思ってなかった、から·····」


 少女はたどたどしく喋る。


 彼女は、人見知りが激しいだけで、元から協力してくれるつもりだった。


「ありがとう隊長さん! ところで、本当の名前は·····?」


「プ、プライバシーの侵害! これでも配信者なの。個人情報は完全にタブーなんだから!」


 さっきとは打って変わって、妙に早口で喋る。


「ああ、そっか。そうだよね。ごめん·····」


 たしかに、木乃花ちゃんも彼女を本名で呼んでいなかったな、と思い直す。


「あ、いや、その、謝らせるつもりはなくって·····」


「じゃあ、隊長と呼ぶことにするよ。いいかな?」


「う、うん。それなら·····」


 少しずつ距離が近付いてきている俺たちを、木乃花ちゃんは親のように優しく見守っていた。



◇ ◆ ◇


「それで、隊長には何を手伝ってもらうんだっけ?」


 とりあえず、木乃花ちゃんの部屋で、俺たち三人は、テーブルを囲うように座って話し始めた。


「アニメーションや3Dなどですね。2Dゲームであっても、3DやCGを使うなんてことも少なくないんです。特に、アニメーションを使用する時は·····」


 と、木乃花ちゃんが説明してくれる。


 ストーリーにおいて、アニメーションを投影することで、我々運営とユーザーの間でイメージが一致する。

 また、テレビなどの動画型広告などでも、人の目を引くためにアニメーションが使われている。


 木乃花ちゃんはそこまで見越した上で、この子を連れてきたんだろう。


「今描かれているキャラクターに、動きを付けるってことでいいんだよな?」


「はい! 私と裕也さんで描いたこれを·····」


 木乃花ちゃんが見せるiPadには、あまりにもきれいで可愛くて美しいキャラクターたちが描かれていた。


「この子たちが動くんだ·····」


 二次元のキャラクターが三次元に飛び出してくるようなものだ。生きて動くのだ。


 生を実感する。胸が熱くなる。


 俺の目には、彼女たちが自由に動き回る姿があまりにも鮮明に映し出されていた。


 陽葵ちゃん。ストーリーってこうやって書くんだ。やっとわかったよ。


「今日は、顔合わせとお仕事の説明だけの予定でしたが、お二人とも何か聞きたいことはありますか?」


「俺はないかな」


「えっと、私は、私の家でお仕事をやってもいい、んですよね?」


 隊長が聞く。たしかに人見知りの彼女は、あまり外に出たくはないだろう。


「配信の方もあるでしょうし、もちろん大丈夫なのですが、配信等の設備はいつでも用意できますので、いつ来て大丈夫ですよ」


「わ、わかりました·····」


 年下の木乃花ちゃんの方が偉く見えるのはなぜだろう。


 とにかく、こうして俺たちのゲーム開発のメンバーに新たにロリが加わった。

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