第17話 日曜日の朝

 目を覚ますとそこは、見知った天井·····ではなかった。俺は、周りを見て今の状況を理解する。


 寝たんだ。木乃花ちゃんと一緒に。


 隣でスヤスヤと眠っている彼女を見守る。


 いつ寝たのかがいまいち思い出せないが、たしか眠れなくて膝枕を·····。


 昨日の出来事を色々と思い出してしまって、恥ずかしくなる。


 いわゆる、深夜テンションというやつだったのかもしれない。感覚が麻痺していたのだ。きっと。


 俺は木乃花ちゃんを起こさないように、そっと起き上がり部屋を出て、トイレに行く。




 ちょうどトイレから出てきた時に、木乃花ちゃんが眠そうな目を擦りながら、部屋から出てきた。


 ──寝起きのロリ。


 やはり、木乃花ちゃんはどんなシチュエーションでも可愛くて、絵になる。


「おはよう。木乃花ちゃん」


「おはようございます·····結城さん·····」


 木乃花ちゃんは無理して起きているのか、フラフラと歩く。その様子がちょっと危なっかしく感じて、彼女の元に行く。


「大丈夫? もうちょっと寝た方がいいんじゃない?」


 まだ朝の7時を過ぎていない。


「結城さん·····と、おはなし、したいので·····」


 木乃花ちゃんは俺の方に倒れるように、寄りかかってきた。完全に体の全てを俺に任しきっている。


「おわっ·····!?」


 いつ寝たんだろう。俺の方が先に寝ちゃったからな·····。


「んん·····」


 あーこれ、もう一回寝かせた方がいいやつ。逆に俺は、完全に目が覚めちゃったぞ。


「よいしょっと·····」


 木乃花ちゃんを抱っこして、ベッドのある部屋へと戻る。木乃花ちゃんは、俺の肩で静かに寝息をたてている。


 そっと布団に降ろして、寝かせた。なんだか、ソファで寝た子供を布団へ運ぶ親のような気分だ。


「ん·····。結城さん·····」


「·····!?」


 寝てるはずの木乃花ちゃんは、立ち去ろうとする俺の袖をギュッと掴む。


「一緒に·····」


「木乃花ちゃん·····?」


 そのまま流れに乗せられて、俺は再びベッドに入ることになってしまった。


「ぎゅーっ」


 木乃花ちゃんが、俺に抱きついてきた。


 単に寝ぼけているだけなのか·····?


「こっ、木乃花ちゃん?」


「ん·····」


 どうしようもないので、俺も再び眠ることにした。


 木乃花ちゃんの全身に包まれながら。



◇ ◆ ◇


「えっ·····!?」


 木乃花は目を覚ますと、自身が葵に抱きついていたことに驚く。


 自分の寝相が悪くないのは知っている。


 ならば、なぜ·····?


「ふぁぁ·····。おはよう、木乃花ちゃん。起きたんだね」


「ゆ、結城さん。わ、私、何かしちゃいましたか·····?」


「うーん。なんか寝ぼけてたのか、俺と一緒に寝ようって言って、それから·····」


「あ、ああ·····」


 頭から湯気が出るほどに恥ずかしくなった。顔も酷く紅潮し、思考がマトモではなくなっている。


「木乃花ちゃん? 大丈夫?」


「ふぁ、ふぁい·····」


「うーん·····?」


 葵は、木乃花が恥ずかしがっているのに気が付く。


(いくら寝ぼけてたとはいえ、そりゃ恥ずかしくもなるよね·····)


 でも正直な話、恥ずかしがっているところもかわいいと思ってしまう。


 葵は、木乃花の色んな表情を見ることができて、距離感が近付いてきたのを感じていた。


 木乃花は気を取り直して言う。


「きょ、今日はとある人が家に来る予定なんです。事前に言っておこうと思っていたのですが、忘れていました」


「とある人?」


 日曜日もダラダラと過ごすつもりだったのだが、やはりそう上手くは行かないか。


「ゲーム開発に参加してもらうため、直接お話をと思いまして。戸越さんと相談した上で、お呼びした方が良いという判断になりました。戸越さんには、誰を呼ぶかはまだ言っていないのですけれど·····」


「それで、誰を呼んだんだ?」


 休みを取ったとは言え、裏でちゃんと動いていたのか。ダラダラ過ごすことばかり考えていた俺とはまるで違う。


 なかなか空きがない時間に新しい人材を手に入れるため、木乃花ちゃんは既に行動を起こしていた。これが「仕事が早い」というやつなのか。


「配信者さんです! アニメーションや3D関連の編集までしちゃう、凄い方ですよ」


「配信者·····?」


 俺みたいな一般人が裏で普通に会ったりしていいのだろうか。まあ、木乃花ちゃんの友達ってことならいいか。


「ええと、確か名前はこれですね」


 木乃花ちゃんの見せるiPadに、聞き覚えのある名前が書いてあった。


「ひよこ隊長!?」


「おや? 知ってるんですか?」


「俺は知らないんだが、裕也が前に話しててな·····」


 木乃花ちゃんに会う前にその名前が裕也から発されたのを、たまたま覚えていた。細野さんに話を途中で遮られてしまったので、名前だけしか知らないのだが。


「そうなんですね! あっ。もうそろそろいらっしゃる時間のはずなので、急いで準備しましょう」


 木乃花ちゃんは時計を見ながら言う。


「準備?」


「私たち、まだパジャマですよ?」

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