第15話 ロリの髪を乾かす

「髪を乾かしてくれませんか?」


 と、木乃花ちゃんがお願いしてくる。


「え? いいけど·····」


 もちろんロリのお願いを断るわけがない。


 ·····何も考えずに了承してしまったが、人の髪の毛を乾かしたことなんて一度としてない。女の子であればなおさらだ。



「上から下に、ゆっくりと乾かしていくんです」


「上から下に·····?」


 ドライヤーに乾かし方があったなんて知らなかった。


 そもそも、普段から自然乾燥なことが多くてドライヤーを使うことさえ少ない。


 ドライヤーを使ったとしても、髪の毛をグシャグシャと適当に乾かすだけだ。


「はい。やってみてください!」


 俺はドライヤーを付けて、まだ湿っている髪の毛を手で優しく持ち、少しずつ乾かしていく。


「こんな感じかな?」


「お上手です。髪の毛の中の方もちゃんと乾かしてくださいね」


 俺は髪の毛の表面だけを乾かしていたらしい。


 あまり意識していなかったが、思っていたより毛量が多くて、余すことなく乾かすのは大変そうだ。


「髪、すごくサラサラだね」


 俺は髪の毛を触りながら言う。


 髪の毛に指を通してみると、どこにも引っかかることなくスッと下まで行った。


 木乃花ちゃんの髪の毛は、小学生ならではのサラサラ感とツヤがあるのだ。


 そしてドライヤーの風に乗ってくる彼女の髪の毛の匂いは、とてもいい香りがした。


「ふふっ。ありがとうございます。髪の毛には多少気を使ってるんですよ」


 髪の毛を降ろした木乃花ちゃんも、かなり目の保養になる。


 お風呂の時にも髪の毛を降ろしているのを見たが、また違った良さがあるのだ。


 濡れた髪の毛もいいし、濡れてない髪の毛もいい。それにランクを付けることはできないだろう。


 俺の髪の毛ならばそろそろ乾き終わっている頃なのだろうが、まだ全然乾いていない。


 慣れていないこともあり、ドライヤーを持つ腕が疲れ始め、少し痺れてきた。


「結城さん。もしかして疲れてきましたか?」


 木乃花ちゃんは、そんな俺を見抜いてしまった。ドライヤーを右手と左手で持ち替えたりしていたからだろうか。


「ちょっとだけ·····。あんまり慣れなくて。で、でも大丈夫だよ!」


「結城さんに無理をさせるわけにはいきません。次は私がドライヤーで乾かすので、クシで髪の毛をとかしてくれませんか?」


 男子たるもの、クシを使うことも少ない。髪の毛を気にしている人なら使うだろうが、俺は使ったことがあまりないのだ。


 別にクシの扱いが難しいというわけではないのだが·····。


「分かった。じゃあ、ドライヤーお願いします」


 なぜか敬語になってしまったが、そんなことを気にすることもなく、俺はクシを手にする。


「髪の毛をとかすのも、上から下へですからね?」


「もちろん分かってるよ」


 ドライヤーの乾かし方って、髪の毛のとかし方と同じだったんだ。


 なんとなく理解したような気になって、俺は再び髪の毛に触れる。


 ドライヤーで乾かしたばっかりの髪の毛は温かかった。なんとなく、その髪の毛をトントンと優しく触る。


 触り心地がいいのだ。


 今度はなでるようにして触ってみる。


「おお·····」


 あまりの手触りの良さに、思わず声が漏れる。


「結城さん?」


「ああ、ごめんごめん」


 俺は我に返る。あまりの触り心地の良さに意識が飛んでいたらしい。


 クシで髪をとかすことに何の意味があるのか、というくらいサラサラな髪の毛を、俺は感情を無にしてとかし続ける。


「こんな感じでいい?」


「はい!」


 鏡越しに見る木乃花ちゃんも相変わらず可愛い。


 俺は、ドライヤーをかける木乃花ちゃんの手に触れないように上手く避けつつ、髪をクシでとかしていった。


 そして、とうとうその時が来る。


 前髪だ。


 木乃花ちゃんの正面に行かなければならない。つまり、間近で顔を見ることになる。果たして、俺に照れ隠しができるだろうか。


「·····」


 正面に回ってクシで前髪をとかす。


 しかし、どうしても顔が気になってしまって、チラチラと見てしまう。


 美しく整った顔に、モチモチのほっぺた。きれいな鼻に柔らかそうなピンクの唇。そして透き通るようなきれいな瞳。白目がもはや透明のように思えるくらいだ。


 ·····俺はその時、木乃花ちゃんからの視線に気が付く。


「あ·····」


 木乃花ちゃんと、めちゃくちゃ至近距離で目が合う。


 目を離せない。


 俺は身体が固まってしまったかのように、身動きが取れなくなっていた。クシを動かす手もいつの間にか止まっている。


 木乃花ちゃんも、いつの間にかドライヤーを切って、膝の上に置いている。


 しばらく、俺たちは一言も発さずに見つめ合っていた。


「·····あ、えっと、髪は乾かし終わった?」


 静寂を壊すように、俺は言う。ずっとこうしていたいというのが本望だが、いつまでもこんな時間を過ごすわけにはいかない。


「は、はい·····! わざわざ手伝ってもらってありがとうございましたっ」


 木乃花ちゃんも自分の世界に入っていたらしく、慌てて返事をする。


 彼女の顔が少し赤くなっているのは、きっとドライヤーが熱かったからに違いない。

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