第12話 ロリと手洗い
──ピンポーン。
家のような部屋に響く、インターホンの音。それに心乃花ちゃんが反応してソファから立ち上がる。
「夜ご飯が届きました!」
俺たちは配達アプリで、夜ご飯を頼んでいた。昼ご飯は仕事場で食べるらしいので、わざわざキッチンで作ったりすることはしないのだという。
「俺が取りに行くよ」
「大丈夫です! 登録してある名前は私のですし、自分で行けます」
そう言って、木乃花ちゃんは部屋をそそくさと出ていってしまった。このだだっ広い空間に一人ぼっちなのは、かなり心細い。
「木乃花ちゃん·····」
女の子の部屋で一人になった時、男子がする行動とは·····。そう、それは·····!
「一歩も動かない」だ。男が、女の子の部屋を漁るなど、あっていいはずがない。男子は皆、ロリに心身ともに近付いてはいけない決まりになっている。そういう世の中なのだ。
「持ってきました!」
木乃花ちゃんにとっては大きな箱を抱えて戻ってくる。俺はそれを両手で受け取って、机に運んだ。
「これは·····?」
「ピザですっ! ピザは好きですか?」
「もちろんだよ!」
ピザはしばらくぶりだ。最後に食べたのがいつだったか思い出せないほどに前である。
そもそも、ピザはそんなに気軽に食べるものではない。外食をするだけでも結構お金はかかるのだ。
木乃花ちゃんは、ピザを大切そうに箱から取り出す。
まだホカホカのピザは、トマトソースの赤みがモッツァレラチーズの白さを際立たせ、緑のバジルがいい具合に添えられている。
マルゲリータだ。ピザの王道オブ王道。マルゲリータなしにピザを語ることはできない。
ピザカッターで丁寧に八等分されたマルゲリータは、まるで食品サンプルのように一寸のズレもなくきれいだった。
「あっ! 手を洗ってなかったですね」
「そういえばそうだね」
俺たちは洗面所で一緒に、水で手を濡らす。
「はい、どうぞ」
木乃花ちゃんはハンドソープを手に持って、俺に差し出してくれる。
「ありがとう」
俺は両手を広げて石鹸をもらい、手をこすって泡立てる。そして手慣れた作業のように俺は水で流そうとする。
「結城さん! 水で流すのが早いですよ! もっと丁寧に洗わないとっ」
木乃花ちゃんはそう言って、泡だらけの手のまま俺の手をガシッと掴む。
「ふへっ·····!?」
木乃花ちゃんに手を洗ってもらっている。
泡だらけでよく見えないが、指と指の隙間に木乃花ちゃんの指が出たり入ったり、手のひらや手の甲を撫でられたりと、俺はなすがままにされていた。
お互いの指がしきりに絡み合い、恋人繋ぎのようになる。俺は木乃花ちゃんの小さな手を直に感じながら、意識を遠くの方へ飛ばしていた。
触れ合うのをくすぐったく感じつつも、とてつもなく気持ちよかった。ロリの小さな手が俺の手を包み込もうと優しく、そっと触れるのだ。
そしてそれは、ある種の快感となって俺を絶頂へと導く。人類の限界を軽々と超えてしまった。
手と手が触れ合うのってこんなに、センシティブなものだったっけ·····。
「それじゃ、水で流しますね」
「う、うん·····」
もういっそのこと、全てを水に流したい。木乃花ちゃん相手に変な感情を抱いてしまった、穢れた自分をもきれいさっぱり流してしまいたい。
「はい! きれいになりました!」
「ありがとう、木乃花ちゃん」
ツルツルのプニプニな木乃花ちゃんのその肌は、小学生ならではのものであり、俺はその感触を直に味わっていた。
途中、俺はロリに介護をされているような気分になって、強い罪悪感を抱く。
手を洗うという幼稚園児でもできることを棄ててしまったのは、生活全てを木乃花ちゃんに任せきりにしてしまっていることとほぼ同義だ。
実際、生活費や食費等々、全てを彼女に頼り、ゲーム開発のお金さえも出してもらっている。
今のままでも既にダメ人間と化しているのに、これ以上堕落してしまったら俺の人間としての尊厳はどうなってしまうのだろう。
言うなれば、俺はロリのヒモなのかもしれない。いや、なんならさらに酷い状況になりかけている。
「このままじゃダメだー」
俺がしっかりしないと。甘やかしてもらってばかりだと示しがつかない。
「何かダメでしたか? もしかして、洗い足りなかった·····?」
しまった。無意識のうちに声に出てたらしい。
「あっ、違う。こっちの話·····。気にしないで」
「·····?」
悪気もなく俺のお世話をしてくれる木乃花ちゃんに余計な感情を抱いてしまったことを、俺はただひたすらに後ろめたく思うのであった·····。
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