第11話 ロリに押し倒される

 木乃花ちゃんは、改めて部屋の紹介をする。


「ここはキッチン、ここがトイレで、お風呂はこっちです」


 木乃花ちゃんに連れ回され、部屋中を回る。部屋の中に立派なキッチンやトイレ、風呂が付いてるって本当にただの家じゃないか。


 そして、今紹介された風呂がとんでもない。まず、温泉みたいな広さである。加えて、ここからの景色も素晴らしいものだった。


 このマンションよりも高い建物はないため、裸でも外から見られる心配は一切ない。何も気にせずに優雅な一時をここで過ごせるのだ。


「ここはホテルか·····? ホテルなのか?」


 ホテルでもこんなところは滅多にないだろうが、この規格外の連続でそろそろ俺も頭がおかしくなりかねない。いや、既になっている。


「次は二階に行きましょう!」


 風呂場から出て、白くて綺麗な階段を二人で登る。改めてここから一階を見てみると、やはり家にしか見えない。


 うん。家だ。


 何億円もしそうな場所を部屋として、一人の少女が使っているのである。


 突然、木乃花ちゃんが立ち止まる。


「ここは·····?」


「寝室です」


 扉を開くと、そこには天蓋付きの大きなベッドが一つあり、ぬいぐるみが綺麗に並べられていた。ベッドは、少女一人にしてはあまりにも大きく、完全に持て余しているはずだ。


「すげぇ·····」


 カーテンやレースの付いたベッドなんて、初めて見た。実際に見てみるとこんなに迫力があるものなんだ。


「今日から結城さんもここで寝るんですよ?」


「へ?」


「だって、一緒に暮らすってそういうことですし·····」


「いやいや!? 俺はソファとかでも全然いいよ!?」


 さっき見たソファもかなり大きく、身体がスッポリと簡単に収まるほどであった。結構フカフカで寝心地は悪くないだろう。


「ダメです! 一緒に寝るんです!」


 木乃花ちゃんにいきなり背中を押され、俺はベッドに倒れこむ。


 ベッドからのいい香りと触り心地の良さに危うく意識が飛ぶところだったが、今はそれどころじゃない。なんと俺は今、ロリに押し倒されたのだから!


「こ、木乃花ちゃん·····?」


 俺は振り返って仰向けになる。木乃花ちゃんが俺を見下す格好で、絶対にありえない状況になってしまった。


「一緒に寝てくれますよね·····?」


 木乃花ちゃんは、仰向けになった俺を膝立ちで跨ぐ。なぜか抵抗する気も起きず、この状態を覆す鍵は完全に相手の手に渡ってしまった。


 木乃花ちゃんの解けた髪の毛が、俺の顔をサーッと撫でてくすぐったい。


 これ以上、木乃花ちゃんに無理をさせるわけにはいかない。子供にこんなことをやらせるだなんて、あってはならないのだ。悔しいが、ここは潔く降参する他ない。


「分かった、分かった。一緒に寝る! 一緒に寝るから!!」


 そう言うと、木乃花ちゃんはバランスを崩したかのように俺の横に倒れ、顔の距離がめちゃくちゃに近いまま、木乃花ちゃんは口を開く。


「それは良かったです」


 そう言って、天使のような笑みを浮かべる。俺はその笑顔を至近距離で見たことで、完全にハートを射抜かれてしまった。


 顔が紅潮していくのが分かる。それがバレたくなくて、俺はそっぽを向く。


「結城さんって可愛いですね」


「どういう意味だ、それは」


 俺は適当に笑って誤魔化す。


 あなたの方が何十倍も可愛いです! 世界一可愛い美少女です!


「そのままの意味ですよっ」


 木乃花ちゃんが、俺の背中に身体を押し付ける。俺は緊張のあまり身体が強ばる。本当に何があった?


「今日からこうして寝るんですよね·····」


「こんなにくっついたら寝苦しいでしょ」


 最もらしい理由を付けて距離を取ろうとするも、効果がない。


「私は構いませんよ? 結城さんのためなら、抱き枕にだってなります」


 薄々気が付いてはいたが、木乃花ちゃんの様子が完全におかしい。


「つ、次行こうか!」


 俺はそう言って起き上がる。


 このままおかしな方向へ行ってもおかしくはなかった。本当に危ない。


「ふゎぁい·····」


 木乃花ちゃんが眠そうに、ゆっくりと起き上がる。はだけた服や、軽く解けた髪の毛が、まるでお風呂上がりかのようで、こう·····グッと来るものがある。



 それからも色々と見て回ったが、やはりこの部屋は次元が違かった。トイレは一階と二階にそれぞれ一つずつあって、巨大なスクリーンだったり、壁一面がホワイトボードになっていたり、壁にかけられた大きなテレビがあったり·····。


 しかし、散財しないタイプなのか、価値の高そうなものなどは一切なく、ちょっと裕福な家程度の物ばかりである。


「木乃花ちゃんは、あまり高い買い物とかしないの? このタワマンは除いて」


「あまり興味がないんですよね·····。それよりも自分の好きなことにお金を使いたいですし」


「好きなこと?」


「はい! 今は結城さんたちとゲーム作りすることが楽しいです!」


 いい子すぎるだろぉー!

 こんな天使みたいなロリを生み出してくれた神様にはいくら感謝してもし足りない。後で、神社にお参りしに行かないと。


「そう言ってもらって、こちらとしても嬉しい限りだよ。絶対、成功させような」


 俺はそう言って拳を出す。


 木乃花ちゃんも小さな拳を作って、僕の拳に軽く当てる。


「はい!」


 世界一、いや、宇宙一の満面の笑みで、少女はそう言った。

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