第7話 ロリ天使とロリ悪魔

 そして気まずい雰囲気の中、木乃花ちゃんの家に着いた。


 玄関で出迎えてくれた彼女の、優しくて甘い笑顔を見て、俺は安心する。まるで実家に帰ってきた時のような安心感だ。


「木乃花ちゃんー!!」


 俺は木乃花ちゃんに抱きつく·····わけにはいかないので、目の前で土下座する。


 ロリとは、言わば神のようなものだ。崇め奉るのだ。


 俺のような穢れた男が清楚系ロリに触れるなど言語道断。


 ロリたちは聖域を所持しており、そこに無断で立ち入ることは領域の侵害である。その時点で外交関係は最悪になる。


「うわあっ! どうしたんですか!? 結城さん!」


「こいつが秘書さんに余計なこと言ったせいで、車の中の空気が最悪だったんだよ」


 裕也がザックリと事情を説明する。


「そういうことでしたか·····。細野さんはああ見えて怖いですからね·····」


 「ああ見えて」じゃなくて、あれは「見た目通り」に怖いだろう?


「まあ、そういうわけなんだ。こいつを叱ってやってくれ」


 裕也は仕事でやり残したことがあるらしく、そう言って自分の部屋へ行ってしまった。


「ふふっ。結城さん、ダメですよ〜」


 木乃花ちゃんは、土下座している俺の頭をヨシヨシと優しく、その小さな柔らかい手で撫でる。


 これじゃあ、お叱りどころか、ご褒美じゃないか!


「こ、木乃花ちゃん·····!」


 やはり天使だ。優しすぎる。


 しかし、その平穏を崩すかのように部屋のドアがバンッと開かれ、陽葵ちゃんが入ってくる。


「その役割、あたしがやろう!」


 陽葵ちゃんはそう言って、俺の頭を靴下を履いた足で踏んづけた。


「陽葵ちゃん!? こ、これは一体·····!?」


 俺はビックリして聞いてしまう。俺の頭をロリが足で踏まれている。状況の説明はそれだけなのだが、理解が追い付いてこない。


「おしおきだ! ちゃんと反省しろよー!」


 陽葵ちゃんの小さな足でグリグリとされる。何これ。やばい。


「あはっ。あははっ·····」


 面白くなって俺は笑う。しかし、陽葵には違った捉え方をされてしまう。


「え? 踏まれて興奮してる!? やっぱりこいつロリコンだ!」


 おい! 清楚な木乃花ちゃんの前でロリコンという単語を発するんじゃない!


「陽葵。あんまり結城さんをいじめてはいけませんよ」


 木乃花ちゃんが陽葵ちゃんをなだめるも、全く収まらない。


「でも、こいつロリコンだよ!? 私たちに欲情する変態だよ!?」


 やめろやめろ。今の時代どこを切り取られるか分からないんだぞ。今のセリフだって、絶対にネットに載せられて、ロリコンの自虐ネタとして使われるんだから·····。


 もしもこれが漫画だったら、スカートの下から白いパンツの見えるロリが、俺の頭を踏みながら今のセリフを言っている、俺視点の縦長の描写になるだろう。もはや、一ページ丸々使ってもいいかもしれない。


「そういう問題じゃないです! 結城さんを解放してあげて!」


 木乃花ちゃんが天使なら、陽葵ちゃんは小悪魔だ。だが、それもいい。ロリ天使とロリ悪魔が俺を巡って争うのだ·····。


「わ、分かったよ、もう·····」


 木乃花ちゃんに怒られて萎んでしまった陽葵ちゃんは、リビングのソファに行ってしまう。




「結城さん、大丈夫ですか?」


「うん。全然大丈夫だよ」


 俺は起き上がって座ると、目の前で木乃花ちゃんが手を広げていた。


「·····? 木乃花ちゃん?」


 木乃花ちゃんがそのまま俺に近付いて、そして、抱きつく。膨らみのない彼女の胸が俺の身体にあたる。


 それは神聖なる領域を侵すことを許可されたようなものだった。ロリの持つ最終防衛線を彼女自ら差し出したのだ。


「!?!?!?」


 ダメだ。理解が追い付かない。え? 何が起こってる? へ? えええ??


「痛めつけてしまったことの謝罪です。みんなには内緒ですよ?」


 木乃花ちゃんは、耳元でそう呟く。俺だけに聞こえるような小さな声で。


 そこは二人だけの秘密の時間だった。こんなことが許されていいはずがなかった。


 やばい。心臓がドクンドクンと高鳴っている。絶対、木乃花ちゃんにこの振動が伝わっている。すぐそこに陽葵ちゃんがいるのに、俺は·····。俺は·····!


 躊躇しながらも、木乃花ちゃんをギュッと抱きしめる。長い彼女の髪の毛の中に手を入れて、背中を触る。その小さな身体から伝わる温もりが、生命の神秘さを感じさせる。


 そこにいる。俺の腕の中にロリがいるのだ。


「木乃花ちゃん·····!」


 ロリに存在を認められたのだ。俺はここにいていいんだ。それが嬉しくてギュッと少し強めに抱きしめる。次、こんなことができる機会はないかもしれない。


 俺と木乃花ちゃん、二人だけの秘密の親睦会は、こうして幕を閉じた。





「それでは、親睦会の準備を始めましょうか」


 木乃花ちゃんは俺の腕から抜け出し、立ち上がって言う。


「そうだね。精一杯盛り上がろう」


「はいっ!」


 木乃花ちゃんの元気な顔を見る度に、俺は元気を取り戻していく。ロリの無邪気な笑顔が好きで俺は·····。


「ちょっと、二人で何を盛り上がってるのよ」


 ソファに寝っ転がっていた陽葵ちゃんが、俺たちの声を聞いて言う。


「何でもないさ。さっさと準備済ませちゃおうぜ」

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