第5話 ロリ小説家、月島陽葵
翌日、俺たちはゲーム作りに必要な資材を持って再び木乃花ちゃんの家に訪れた。
ソファに座る木乃花ちゃんの隣には、また一人少女がいた。写真で見た黒髪ツインテールのあの女の子だ。一見すると地雷系女子みたいな服装をしている。
「こちらが月島陽葵さんです」
「·····よろしく」
面倒くさそうにその少女は言う。俺はそんなことは気にもせず、いつも通りに振る舞う。
「結城葵です! よろしくね」
裕也も自己紹介を終えた後、木乃花ちゃんが少女の耳元でコソコソと何かを呟く。
「陽葵。この前も言ったけど、あまり強い言葉は使っちゃだめだからね?」
「もう·····。わかってるよ·····」
俺と裕也はそれぞれの自室で作業することになった。そして俺は今、陽葵ちゃんから厳しいダメ出しを受けている。
「そんなんじゃ全然だめ! もっと設定を忠実に考えないと!」
「うあああ!! じゃあどうすればいいんだよ!」
俺はヤケになって頭をかきむしる。
「まずどうやってガチャに繋げるかが一番のポイントなんだよね? でも最悪、ガチャとストーリーを繋げることもないと思う」
「そうだけど·····。でも、どうせなら繋げたいんだ」
「じゃあよくある感じの、特殊な機関がガチャを提供するってのは?」
「それだと、なんか·····強引じゃん?」
ストーリーを褒められた手前、そこら辺の設定は忠実にやりたい。我儘だけど、自分のゲームなんだからそれでいい。
「はあ·····。代わりに考えてあげるから、他のところやっててよ」
「ありがとう陽葵ちゃん! 俺のために·····」
「べ、別にあんたのためじゃないんだけど!?」
よく聞きそうなセリフを本当に耳にする機会が訪れるとは思わなかった。
陽葵ちゃんは意外と気が強くて、でも少し見栄を張っているようにも思える。背伸びしたい時期なのかもしれない。
それぞれが作業を始めてから少しした頃、陽葵ちゃんが話しかけてきた。
「そもそもこれはどの層に向けて作ったの?」
「層?」
「うん。10代から20代の若者とか男性向けとか」
「あー。·····君たち?」
言うべきではないことを言ってしまったかもしれないと思ったが、撤回するにはもう手遅れだった。
「あたしたち?」
陽葵ちゃんは考えている素振りをし、そしてその意味に気が付いたようで、顔を赤らめる。
「ロリコン! 変態!」
「酷い言われようだな·····」
ロリコンは否定しないが、変態だと言われるのは少し気に食わない。俺はこう見えて、紳士な男なのだ。
「もう·····。さっき軽く調べてみたけど、女の子たちにこういうゲームは向いてないよ」
「ああ、やっぱり·····?」
陽葵ちゃんは、部屋の電気を消し、どこかに隠されていたスクリーンを出して、グラフを投影する。
「女性はパズルゲームをやる人が圧倒的に多いの。それ以外の戦闘系は全部男性の方が多いのね」
まるで学校のように授業が始まった。いや、会社のプレゼンテーションみたいなものだろう。
というか、そもそも彼女たちは会社を運営している。
そう。
ここは仕事場なのだ。このゲーム開発も決してお遊びなどではない。ちゃんとお金が動いているんだ。生半可な気持ちでやっていいものではない。
「そして、今回のゲームの登場キャラクターは女性ばっかりだけど、そうなるとどうしても男性向けになりがちになる。もちろん女性向けではない、なんてことはないけど、それは仕方のないことなんだ」
陽葵ちゃんは淡々と説明を続けている。
そもそも、このゲームは、有名企業の少女たちに見付けてもらうために作っただけで、一応はその目的を既に果たしているのだ。
今さら、女の子向けのゲームを作る必要はない。今度はお金稼ぎのためのゲーム開発をする。それでいいじゃないか。
「ちょっと! 聞いてるの!?」
考え事をしていると、陽葵ちゃんがいつの間にか俺の前に立って怒っていた。怖くないどころか、もはや可愛い。小学生ということもあり、座っている俺と身長が同じくらいだ。
「陽葵ちゃん。そのまま行こう。男性向けでいいから!」
「えっ? あっ。そう、なんだ·····」
突然の俺の発言に動揺したらしい。あれだけ真面目に説明していた意味もなくなって、気恥ずかしくなったのかもしれない。
とりあえず方向性も決まったことで、俺たちは再び作業に戻った。
「それでガチャの話なんだけど·····」
「おっ? もう考えたのか?」
「うん。終末の世界で生き残る少女は一人で良いんじゃないかなって。過去に戻って、そこで有能な少女たちをスカウトして仲間にしていく。それがガチャになるの」
「なるほど·····。そうしたら、アップデートでキャラクターを追加したりもできるし、確かに筋は通ってる! 天才だよ! ありがとう陽葵ちゃん!」
「ふ、ふん! 無能のロリコンとは違うもん! これくらい思い付かないと、本業失っちゃうんだから!」
陽葵ちゃんが褒められて照れた! 凄く分かりやすい。ああ、可愛い!
「そうだよ! 陽葵ちゃんは世界一の天才だ!」
さらに追い討ちをかける。人は誰しも、褒められれば褒められるだけ調子に乗るものだ。
「·····天才だと二回も言われたら、流石に気付くわよ。ボキャブラリー少なすぎるんじゃない?」
陽葵ちゃんは呆れたような態度をして、すぐに俺への攻撃を始めたが、その顔は満更でもなかった様子だ。内心ではきっと喜んでいる。それくらいのことは俺でも分かった。
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