第4話 ソシャゲにするためには

 木乃花ちゃんに、「ゲーム作りに関してはあまり詳しくないので、何か必要なものがあったら何でも言ってください」と言われて、俺と裕也は部屋で話し合っていた。


 部屋と言っても、普通の部屋ではない。俺と裕也のために用意された共同スペースだ。有り得ないほどに広い。


 結局俺たちは、そのまま車に乗せられて、立派なタワマンに連れて行かれたのだ。


 このマンションの全てが、なんと木乃花ちゃんの家だと言う。もう少し細かく言うと、マンションに職場と自宅が全て収まっているらしい。


 ちなみに、俺と裕也には共同スペースに加え、さらに専用の部屋が別々に用意された。ここで寝泊まりできるほど、設備が充実しきっているのだ。


「せっかくの機会だ。俺はソシャゲにしてしまおうと思っている」


「でもそうなるんなら、ストーリーを再構築する必要が出てくるんじゃないのか?」


「確かにそうなんだよなあ。せっかく木乃花ちゃんにも褒められたのに·····」


 ソシャゲにするにしても考えなければならないことはたくさんある。


 例えば、ゲームの運営はどうするのか。人手は圧倒的に足りない。お問い合わせの対応もしなければならないし、サーバー落ちしないように手を加えなければならない。


 他に考えるべきことは、ゲームスタイルはどうするのか。パズルやタワーディフェンスなど色々と種類はあって、その中から選ばなければならない。


 ゲーム作りがそこまで甘くないことは、一度失敗したことで分かっているつもりだ。今度は前回の二の舞にならないように、忠実に進めていく必要がある。


「とりあえず、ストーリーはまた俺の方で考えてみるよ。裕也はどうするんだ?」


「俺は木乃花ちゃんと一緒に、最高のキャラクター作りに専念する。というか、それ以外に選択肢がない」


「ああ。そっか·····」


 裕也はイラストのためだけに呼んだのだ。彼には元々、それ以外をやるつもりはなかった。


 そして本望は、ゲームを作ったことのある人に人手として協力を求めたいのだが、他会社から引き抜くわけにもいかないし、木乃花ちゃんにはそこら辺の人脈はない、とのことだったので潔く諦めた。




 俺たちは部屋を出て、リビングのソファで座ってiPadを触っている木乃花ちゃんに声をかける。


「あ! 結城さんと戸越さん! お話はまとまりましたか?」


「とりあえず、裕也と木乃花ちゃんで、キャラクター作りや風景の書き直し、その他のデザインをすることは決まった。木乃花ちゃんもそれでいいよね?」


「はい! もちろんです!」


 木乃花ちゃんは元気に賛同してくれる。


 こんなにも可愛いロリを裕也に手渡すのは少し苦しいが、ここは仕方ない。


 ロリが身近にいる仕事場とかいう、今はこれまでの人生で最高の状況だ。


 下手に傲慢になって、木乃花ちゃんにロリコンという本性がバレることは避けたいのだ。


「それで、俺たちはノベルゲームからソーシャルゲームに変えようと思っている。元々、俺たちはそれを作りたくてゲーム作りを始めたんだ」


「なるほど·····」


「でも、そのためにはストーリーを考え直す必要がある。ストーリーに沿ったガチャを追加したいし、長寿ゲームにするために、もっとストーリーを長引かせなきゃならない。


 だから、ストーリーの再構築を改めてやろうかと思っているんだ。せっかく木乃花ちゃんが褒めてくれたのになんかごめん·····」


「謝らないでください! ゲーム形式を変えると言っても大まかなストーリーは変わらないでしょうし、そんなに気にするほどのことじゃないです! それに、さらにいいストーリーができるかもしれません!」


「ありがとう·····。だから、ストーリーを再構築するにあたって、BGMとか声当てとかはまだまだ先になると思う」


「それはいいのですが、ストーリーは結城さんが一人で考えるんですか?」


「え? まあ、一応そのつもりだったけど·····」


「小説家さんとか呼んでみます?」


「小説家?」


 これまで小さい規模でやっていたために思い付かなかったけれど、今ならそういうこともできるのか。


 ゲームシナリオを作るのに、作家さんが呼ばれることは少なくない。俺はその選択肢を全く考えていなかった。


「はい! 最近いくつも賞を取っている月島つきしま陽葵ひまりさんとかどうでしょう? 可愛い女の子ですよ」


 木乃花ちゃんはiPadで写真を見せる。そこには木乃花ちゃんと同じくらいの歳の少女が映っていた。


「これはこの前、一緒に遊園地に行った時の写真なんです。陽葵の作品にお手伝いさせていただいていて、そこから仲良くなりました」


「ぜひともお願いします!」


「分かりました! こちらから連絡しておきますね」


 この時はまだ気付いていなかった。


 裕也がお金持ちになりたいことさえも知っている木乃花ちゃんが、俺がロリコンであることを知らないはずがない、ということを·····。

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