第017話 お昼ごはん食べよ
戦闘試験を終えたアルフとアドイードはギルドマスターの部屋でまったりしていた。試験があまりに一方的であったため、協議したいとのことで待たされているのだ。
戻り次第、エミールもこの部屋に来させると言われている。
スッキリするにはもう少し時間が必要なんじゃ、と思ったアルフだったが何も言わなかった。
ぼふっと体を預けた
きっとこの革の持ち主であった魔物は氷属性だったのだろう。
他の家具も高級なものばかりで、木製のものはすべて異なる種類のトレント製だし、灯りや空調機、天井やドアノブに至るまで、こだわり抜いただろうブランドものの魔道具が使われている。
おそらく時間がかかる。
そう告げたマリーが用意してくれたサンドイッチと茶菓子のクッキーでは腹は膨れず、アルフとアドイードは魔道具に使われていた魔石をもれなく摘まみ食いして、くぅくぅ煩い小腹をちょっぴりだけ黙らせた。
次はメインの食事だ。
アルフが
「こっちは犬だよ、あっちはババァ~♪」
卵が薄いクッキーような形をしているのは、茶菓子を見たアドイードが閃き、やってみてとアルフに提案したからだった。
美しく並べられていく卵は菓子屋のディスプレイのようで、アルフはそれをとても嬉しそうに眺めている。
「やればできるもんだなぁ」
これまで卵は大きさしか変えられないと思い込んでいたのだ。これはかなり応用が効きそうに思える。
アルフは色々な使い道を考えてにっこりした。
「砂粒くりゃいに小さくできりゅんだもん。アドイードできりゅって思ってたよ」
ふふん、と得意気に胸を張ったアドイードが、我慢できずに渡された
「美味しいねぇ」
美味しい魔力をがっつり奪って作った卵は久々で、その濃厚な味わいにうっとりする。
「ありゅふ様も食べよ」
アドイードが皿からババァの卵を取って口に運んでくれる。
「っかぁ~、旨い!!」
まるで一杯目のエールを喉にかっ込んだような声を出すアルフ。若々しい見た目とのギャップがすごい。
「三回で飽きりゅかなって思ってたけど、なかなか悪くないね」
アドイードがにっこり笑ってアルフを見た。
可愛い。あまりにも可愛いい。アルフは返事の代わりにアドイードを抱き締めたくなる。
だが、それは腹の痛みによって遮られた。
内側からドカドカ殴られているような鈍い痛み。それも一発や二発ではない。
こんな酷い暴力に訴える魔物は、
「クインだ……卵を食わせろってさ」
「ありゅふ様を差し置いて図々しいね」
アルフのお腹をさすさすしながら「めっ、すりゅ?」とアドイードが見上げてくる。
「俺を巻き込まないでくれるならいいけど、そうはならないだろ、絶対」
「……そだね」
アルフは小さな溜め息をついてから、腹に手を突っ込んだ。
バシバシ叩かれることはさておき、むぎゅっとした布の感触が気持ちいい。妙にぬめぬめしているのは涎だろうか。
そんなに腹が減ってたとは、とアルフは少し申し訳なくなった。
「今出すから。そんなに暴れるな……よっ、と」
「ふぁっ!?」
引っ張り出されたものを見たアドイードの目が真ん丸になった。
てっきりちょっと怒った可愛らしい人形が出てくるかと思ったのに、アルフが掴んでいるのは、蛸足とハンマーがびちびち蠢く謎の物体だったのだ。
アルフも驚き咄嗟に手を開く。その瞬間、凄まじい怒声が響き渡った。
「オレが先だって言ってんだろ! このゴミカス共がぁぁぁ!!」
ぶん投げられた
「っなんだぁ、あのクソ新入りはぁ! テメェら舐めてんのか!!」
鬼の形相でアルフにガンを飛ばす小さな人形。
元は愛らしかったであろうその顔はもはや原型を留めておらず、止まらぬ暴言のままにアドイードから
ぱたり――
緑色の液体をぶち撒けるアドイードが床に転がった。
「ち、違うんだクイン――ぐぇっ!?」
クインは事情を説明しようとしたアルフを無視。思い切り顔面をぶん殴った。
たぱぁ――
鮮血が砕けた壁に飛び散り、支えるものを失ったアルフの首からも噴き上がる。
「何事だ!!?」
部屋に飛び込んできたのはエミールだった。
彼が目にしたのは、うねり迫る蔓の大波であった。
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