第011話 ダンジョンは大嘘つき

 即座にアルフを下がらせ、タコに剣を向ける衛兵たち。

 上官の詠唱も心持ち早くなったような気がする。


「えっ、なんで私が……あ、ご主人様! 助けて!」


 ふわっと浮かびながら後退ったタコが、怯えながら視線を向けたのはアルフ、そしてアドイードだった。


 その瞬間、二人の衛兵がこちらに振り返った。


「どういうことだ!?」


 バリバリの殺気がアルフを慌てさせる。


「え? い、いや、えと、これは違くて……」


 アルフはアドイードに思考を送る。


『どうなってんだ。勧誘は失敗だったよな』

『アドイードわかんないよ。でも名前が一緒じゃなかったかりゃ、アドイードも失敗だと思うよ』


 頭の中でやり取りしつつも、何か言わなければ剣で貫かれてしまうと焦る。

 なぜならアルフたちの防御力は、他のダンジョンたちから紙装甲と揶揄されるくらい終わっているのだ。

 そして皆の前で復活でもしようものなら、あっという間に魔物認定されて討伐隊が組まれてしまうだろう。手配書だって出回るかもしれない。


「お、俺はテイマーなんだ!」

「嘘を付け! なら何故さっきそう言わなかったんだ!」

「う、嘘じゃないよ。ありゅふ様はテイマーだよ!」


 あわあわしながら反論するアルフたちに、疑惑はいっそう深まっていく。

 アルフの額から垂れる水滴は汗なのか天井から落ちた水滴なのか……。


「なら他の魔物はどこにいる! テイマーが魔物を連れて歩かないなんてあり得ないだろ!」


 確かにその通りだ。

 アルフはえ~と、え~と、と体内ダンジョンにいるどの魔物を呼び出そうか考えては、あいつは駄目だ、こいつも駄目だ、と狼狽えている。


 元々の数が少ないうえに、アルフとアドイードに懐いている魔物はさらに少ないのである。


「あ、じゃあクインは――」

「クインは駄目だよ。寝てりゅのに起こしたりゃ何さりぇりゅかわかんないよ」

「あ~、じゃあ、え~と……」


 焦りすぎてほぼパニックになっているアルフを見たタコの表情が曇っていく。


「ご主人様に攻撃するんですか?」


 ごうっと放たれたタコの魔力が、炎の蛇と檻を弾けさせた。欠片の当たった松明が湿った床に転がり、じゅううっと煙を上げる。


「ままままま待て待て!! 今、お前が暴れたら詰む!!」


 アルフの制止にビクッと怯んだタコは、しおしおと八本のタコ足を縮ませてイジイジし始めた。


「え~と、え~と……あ、グルフナだ!!」


 そりぇだっ、と同意したアドイードを無視してアルフは手のひらから小振りな戦を出した。


「こ、これはハンマーの魔物でっ……え~っと、あああ挨拶だ、挨拶するんだグルフナ!」


 珍しくアルフに懐いている魔物であるグルフナは、アルフの指示に従い目一杯愛想よく振る舞った。


「ゲェア、ギョア~」


 ぐねっと開かれた頭部には鋭い牙が無数に並び、奥には触手が蠢いていて凶悪そのもの。さらに、邪悪なものを呼び寄せそうな汚なすぎる声。


 衛兵たちはアルフに斬りかかった。

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