第009話 あなたの名前が知りたくて
全裸のアルフが祈りアドイードが歌い踊る異様な地下牢。
床に描かれた魔法陣の縁から、緑みを帯びた青い光のベールが上り揺らめいている。
「ありゅふ様はね~、アドイードなんだよ~♪ アドイードもね~、ありゅふ様なんだよ~♪」
歌詞はともかく妙に上手いアドイードの歌。その愉しげなリズムと表情は、地下牢という陰鬱とした場を劇場のように錯覚させる。
「ありゅふ様だかりゃね~、アドイードなんだよ~♪ アドイードだかりゃね~、ありゅふ様なんだよ~♪」
踊りも悪くなかった。
多少風変わりではあるものの、この場に見るものがいたならば、きっと魅了して止まない出来映えだろう。
ただ、時おりキリッとした顔で決めみせる幼少期の男児がするようなポーズが、その風変わりさを強調していて、もしかすると小さな笑いを誘うかもしれない。
対してアルフは目を閉じ、正座をして一心不乱に祈っている。
何に祈りを捧げているのかは聞き取れないが、決まったタイミングで魔法陣の中心に向かい上半身を臥している。
「ありゅふ様とね~、アドイードはね~♪」
アドイードが何度目かの決めポーズをしたとき、アルフたちの牢は可視化した歌の歌詞で埋め尽くされた。
古代魔神文字か、旧クロノス神聖文字なのか、どちらにもよく似た現代では見かけないそれは、アルフが上半身を臥す度に魔法陣へ吸い込まれていった。
どれくらいの時が過ぎただろう。
歌詞を吸い尽くした魔法陣は卵型魔法陣に形を変え、世界樹型魔法陣を経て、今は準恒星状天体魔法陣となっている。
「頼む、俺たちの魔物になってくれ!」
「なってくりぇ!」
互いに対面するよう位置をとり、蔓で作った環で魔法陣を囲っていたアルフとアドイードが懇願するように叫んだ。
すると蔓の環がざわざわ伸びて目の粗い球状のランプシェードのように魔法陣を覆っていき、圧縮され続けていた膨大な魔力をさらに圧縮していく。
魔法陣の輝きはいっそう強まり、蔓の隙間から漏れるそれらは、まるで叫びに反発しているかの如く感じられる。
しかしそれはアルフとアドイードによって抑え込まれ、徐々に形を小さくしていった。
「お、お前は――」
なおも全力で踏ん張り暴れる魔力を抑え込むアルフが、魔法陣の中に何かを見付けた。それはアドイードも同じだった。
「オスカリ!!」
「リュミ!!」
アルフたちは再び同時に叫んだ。
「「えっ!!?」」
初めてだった。
何故ならこれは
顔を見合せたアルフとアドイードだったが、既に儀式は完了しており、魔法陣は蔓の囲いごと常にそれらの中心にいた
「……また失敗か」
「……うう、なんでいっつもこうなりゅの」
アルフたちは両手両足を床に付き悲しみにくれる。
しばらくそうしていた二人だが、ガバッと顔を上げると勢いよく抱き付いた。
「アドイードぉ~」
「ありゅふさまぁ~」
おいおい泣きながら魔物勧誘の下手さを嘆くアルフとアドイードだったが、異常な魔力の発生に気付いてやって来た衛兵に鋭い視線と剣を向けられるのだった。
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