第006話 アルフは楽観的

 体内なのにいる・・

 自分たちの中に入るという驚愕の現象だが、アルフたちはもうすっかり慣れていて、塵ほどの疑問すら抱かなくなっていた。


 但し、両方が体内ダンジョンに入るときは、どちらかが最後にいた場所に何かしらのを出入口して残す必要があるらしく、先ほど飛び込んだ蔓の輪がその一種だったりする。


「う~ん、また怒られるのかなぁ」


 卵に全然追い付けないアルフは、森を取り込んだことを心配し始めた。

 ここ数年、物凄い勢いで大きくなっている不滅のアルコルトルアルフとアドイードは、他のダンジョンから良く思われていない。

 特にご立腹なのが、二人がダンジョンになる以前から存在しているダンジョンたち。それはもうぶちギレらしい。


 別にアルフたちはやりたくてやっているわけでも、悪気があるわけでもない。ただちょっと未熟なだけ。意図せずダンジョンスキルが暴発してしまうのだ。

 

 例えば今回のように。

 

 先ほどの大惨事の原因は、浸食というダンジョンの領域を拡げるスキルの暴発だった。

 浸食は周囲の環境に魔力を浸透させ、長期間の変異を促し自分好みにしたうえで取り込むスキルなのだが、アルフたちは世にも珍しい自由に移動できるダンジョン故に、このスキルがめちゃくちゃ不安定なのだ。

 どちらかの感情が高ぶった状態で互いの死が重なると即ボカン。

 

 生まれたときからダンジョンである先輩方彼らのように、ダンジョンの本能やら、ぶっちぎった知識があるわけでもないのだから大目にみてくれたっていいはずだ、とアルフは思っている。


 ついでに言えばアルフたちはダンジョンの本質でもある魔物の作成も超がつくほど不安定だ。滅多に成功しない。

 

 浸食の暴発で魔物やヒトが取り込めたのなら状況は違っただろう。しかし悲しいかな、取り込めるのは土地と動植物とあとは虫くらい。

 魔物やヒトなど魔力が豊富な生き物は、身に付けているものごと世界の何処かへ弾き飛ばされてしまう。

 

 現に今の不滅のアルコルトルダンジョンは、広さの割に魔物が極端に少なく、冒険者を誘い込むことも躊躇われるほどなのだ。

 故にアルフたちは出会った魔物を片っ端から勧誘している。が、こちらの成功率もかなり低いという。


 それから、土地に埋まってる魔石やなんかも、取り込んだあとで改めて見付けないと食べられない。

 だからいつも腹ペコなのだ。


「まあいいか。先輩・・たちに近付かなけりゃいいんだし……はあ、何か食べたい」

「ありゅふ様も? えへへ、アドイードもだよ。一緒だね」

「よし、卵は放っとこう。どこで孵化させるかは後回しだ」


 色々面倒になったアルフは卵の放置を決めた。


「ふぇ、いいの?」

「いい。それより早く外に行こう。またごはん探ししなきゃなんだぞ」


 アルフは蔓を出して輪を作り、アドイードを抱えて外に出た。


 孵化させていないのにも拘わらず、卵がひび割れたことに気付かずに……。

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