第2話 襲撃と迎撃

 山間の街道にて、豪奢な馬車を背に騎士とおぼしき者たちが戦っている。

 近年、山賊のさの字も聞いたことがないこの山で、幾年振りかの大事件であった。


 賊は皆、髑髏を捻ったような仮面を付けており、短剣やナイフだけの軽装備にも拘わらず、驚くほど統率された動きで次々と騎士たちを屠っていく。


「くっ、先行のやつらは何をしていたんだ――ぐぁ!」


 また一人、応戦する騎士が鎧ごと胸を貫かれた。


 残るは高位貴族らしき青銀の西洋甲冑プレートアーマーの騎士三名とその部下らしき白い鎧の騎士五名。


「結界はまだか!?」


 飛びかかるように襲ってきた賊を盾で薙ぎ払い、風を纏った剣で反撃した高位貴族の騎士が、距離を取った賊たちを警戒しつつ部下の騎士に視線をやる。


「あと五分で完了します!」


 どうやら結界を展開する防御班が真っ先に狙われたらしく、本来の連携がとれていないようだった。


「あと五分か……」

「問題ない」

「そりゃそうだ。一人で一〇人相手すりゃいいだけだ」


 高位貴族の騎士たちが剣に再度魔力を込める。

 それぞれの先天属性と同じ風、火、水が剣に宿り、賊に向けて斬擊が放たれる。


 斬擊一つで六人。通常の賊相手なら簡単に屠れただろう。

 しかし相手は並み以上の手練れ。

 運悪く仲間に囲まれるように位置していた一人が吹っ飛ばされただけで、それ以上の損害はなかった。


 先ほどは強がってみたが、襲撃されてからものの数分でこの有り様。しかも魔法剣さえ簡単に回避される始末。

 五分が途方もなく長い時間に感じられた。


 互いに隙を伺う賊と騎士。


 沈黙に揺れる間合いの境界を賊が越える、そう思われたその時、森の奥からバキバキと何かの迫る音が聞こえてきた。


 一瞬、ほんの一瞬の隙であった。

 騎士の二人が出遅れ、深手の傷を負ってしまった。

 一人対応した風の魔力を扱う騎士が、止めを刺そうとしてた賊たちから仲間を守る。


 再び訪れた間合いの取り合い……いや、賊の数が減っている。次こそは確実に仕留めるための再配置の時間だろう。


 騎士が治癒ポーションを取り出し呷ると同時に、賊どもが短剣に魔力を込め始めた。

 騎士が目を見開く。あの技術は騎士ですら習得が困難とされる技なのだ。

 手練れ過ぎるとは思っていたが、これはただ事ではない。


「くそっ――」


 短剣を持つ賊が一斉にその刃を振りかざした。

 迫り来る魔力の斬擊。

 どれも幾分か小さいものの、その威力は他ならぬ魔法剣の使い手である騎士の絶望を掻き立てるには十分であった。

 それでも、身をなげうってでも主を護るのが騎士。

 結界の完成と仲間の治癒時間を一秒でも稼ぐべく、全魔力を剣に込めた風の騎士が前に出た。


「――っ!」


 治癒ポーションの効果待ちだった二人の騎士が下唇を噛み締めている。

 彼らは幼馴染みであり、主の婚約者候補でもある。

 切磋琢磨してきたあの時間が駆け巡り、誰が婚約者に選ばれたとしても友情は永遠だと誓い合った数日前のさかずきが目に蘇る。


「結界、展開します!!!」


 あいつは立派だった。そう語り継ぐことを心に決めて、残った二人は振り向くことなく馬車へ駆けて行く。


 風の騎士は微笑んでいた。

 愛する者たちを護れるならば騎士の本望。剣を握る手にいっそう力がこもる。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 斬擊を迎撃するため剣を振りかぶったその時――


「見つけたぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 鬱蒼とした薮の中から男が飛び出してきた。

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王子様はストーカーに融合されたしダンジョンにもなりました 173号機 @173gouki

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