第28話 魔法騎士大演習 3♡

 東堂達は仮眠をとった後に、すぐに行軍。疲労が続く中、次の日も大変な一日になった。


 もう一つのチーム、師団長パボン率いる歴戦の猛者達がトルイストチームに奇襲をかけてきたのだ。


 


 パボンはチームを二手に分け、片方は荷物を持ってエデン平に向かわせ、もう片方はトルイストの背後を捕るように行軍した。


 早々に奇襲を仕掛けるためである。


 ゴールはエデン平だが、奇襲が駄目とは言われていない。まともにぶつかりたくない相手は、そこに至るまでに戦力を削いでおけば良いのだ。必ずゴール地点で戦わなければならない、というルールではないのだから。



 パボンのチームは歳ではトルイストに劣るので、知恵で勝たねばならない。

「若造に、おじさんの凄さを教えてやらんとな」

 パボンは、凛々しい髭をなでつけた。  


 戦況はこちらに有利なはず。すぐに決着がつくだろうーー。


 


 東堂は、モロフ達と共に暗い森に潜んでいた。


「おっさん、賢いよなー」

 さすが、歴戦の猛者。ルールの抜け道を探すのは得意とみえる。そういうのもあって、きっちりしたルールにはしないのだろう。喰えない王子様だ。


 けど、皆が同じ事考えたらどうなるんだろうなーー。


「おまえら、いけるか!」

 東堂の声に、木の陰から数十名の騎士達が出てくる。

「やるぜ!」

 東堂達は、眼下にある崖を一気に駆け下りた。


「傾斜きひゅい!」


「はべんな!」


 


 行軍中、東堂は最後尾にいた為、背後の斥候にいち早く気づいた。


 ーーなんでつけてきてんだ?


「なあ、つけられてるよな?」

 ひそひそとモロフに言う。

「えっ!ホント?」

 前を走る、相部屋仲間のフルッグが察した。

「あっ、奇襲されるね。小隊長ー!斥候です」

 フルッグは声を潜めて小隊長に話しかける。小隊長ジップは、素早く振り返り、森の中の違和感に気付いたようだ。

「前に知らせに行く。動きがわからないように隠してくれ」

 東堂達は、自然にフルッグの近くに集まった。ガタイのいい男が数十人も集まれば、背後から前の様子は見えず、目隠しになるだろう。ジップはリュックの重さを、感じさせない走りで駆け抜けていく。  


 前の隊に知らせれば、リレーのようにその次へと繋がっていく。いつでも報連相は、大事だ。


「最初からこっちを潰す気だったんだな」

「すげえ。さて、やられっぱなしじゃおもしろくないな」

 東堂は地図を広げる。

「もう少しで野営地点だ。そのときに、わかんねえようにこの上に登っちまえば、敵が通った後、背後をとれんじゃねぇ」

「傾斜きついよ。高さもあるし」

 モロフが目を丸くする。

「野営地点に着いたらそこから登ってみようぜ。この角度ならワンチャンいけんじゃね。ここまで戻ってきて、敵が通り切るまで潜んでおく」

 40度、いや、50度ぐらいかーー。勢いよく行けばできるだろう。若さ故の無茶ではあるが。

「いいね、トードォ。それやってみようよ」

 フルッグが話に乗ってきた。

 相手が考えないところから出てくる。缶蹴りみたいだな、東堂は思った。






「後ろから敵です!」

 知らせにパボンが目を剥いた。

「まさか」


 こちらの斥候に気づいたとはーー。


  


 奇襲をかけたパボンチームの背後につく。敵は、背後を取ったつもりで、自分達が取られるとは思わなかっただろう。挟み撃ち、成功である。


 ーーうわ、最強だ、このスニーカー。


 傾斜の駆け下りにも耐えるしなやかさ。


 さすが、ブーマ。


「おら!」

 突然現れた若い騎士達に、パボンチームは乱された。

 トルイストは東堂の考えに賛成してくれた。

 野営地で他の騎士達にわざと大きな動きでテントを張らせ、東堂達の動きを気取らせる事なく、崖登りを成功させた。


 ただ、東堂は自分で登ると言ったのだが、トルイストは身軽で「サル」というあだ名のサルバドールを先に上がらせ、紐を垂らすという、安全策を取った。


 ーーこの人なら直角もいけそうだな。



 殺しはしないが、殺す気でいけーー!


 大隊長の教えを胸に、東堂は美花の剣より重量のあるロングソードを振る。


 中年のイケメン騎士が受けて立つ。両方の刃で斬れるので、遠慮なく振る。東堂達は鎧はつけていない、胸当てぐらいだ。わずかな隙が致命傷になる。


 もちろん、剣で頭は狙わないルールであるがー。


 刃が外されれば、隙を狙って切っ先がくる。避けてこちらもバランスを崩しながら突く。


 ガシッ、ガシッと打ち合う。西洋の剣は丈夫らしいが、そうなのであろう。本当の戦場では武器が無くなれば、死んだ兵士の剣を使う、と習ったが、聞いたときは「死んだ奴のなんて気味がわりー」と、思ったものだ。しかし、武器がなく補充手段が無い場合、下に転がっている武器を使うのは当然の事。


 ーーそう、そいつは今だ!


 打ち合いの中、叩き折られたロングソードを捨て、落ちている剣を構える。中年の魔法騎士は手を叩いた。


「いい感してるな」


「どうも」


 武器が落ちているという事は離脱者も出ているのだろう。戦闘に必死になるあまり、まわりは見えていないので、どれだけ減ったかはわからないが。


「だが、死に近い顔をしている」

「・・・・・・」


 ーーどいつもこいつも何だそりゃ。


 再び剣と剣がぶつかる。だが、東堂は力負けした。後ろにずり下がり、力任せに押し返そうと剣を弾いた。間髪入れずに、騎士は剣を振り上げた。


 あっ、斬られるーー。


「退却!各自エデン平へ!」

 不利と見たのか、敵に勢いをつけさせない為か、パボンチームは撤退を始めた。

「撤退か。早すぎだ」

 騎士は少しつまらなそうに、剣をおさめた。

 次の瞬間、騎士達は助走もなしに飛び上がった。


 東堂達が下りて来た崖を、勢いよく上がっていく。

「うそ!おっさん達、すげぇ!」

 意表を突かれた事への仕返しか、東堂が股関節を痛めながら登った崖を、走るが如く駆けて行く。

「さらばだ、少年。また会おう」

「おぅ」


 イケメンの良いおっさんだった、と東堂は息をつく。




「おい、トードォ!俺達の隊が誉められたぜ!」

 モロフが、近付いてきた。

「訓練とはいえ、初陣でここまで出来る奴はいないよ。おまえ、すごいなー」

 東堂は胸を反らせた。

「だろ?」

 充実感で満たされる。


 何が死に近い、だ。


 東堂は、言葉を吐き捨てるような顔をしたーー。






 余談ではあるが、アレクセイは一日が終わると天幕に戻り、魔法使用許可場から転移魔法で、琉生斗の元に通っていた。


 もちろん、一日一回以上のキスをする為である。


 最初の二日間は神殿にこっそり入り、疲れ切っている琉生斗にキスをした。


 三日目は離宮の寝室で、スヤスヤ眠る琉生斗を、起こさないように、アレクセイはキスをする。


「………」


 アレクセイは気付いた。琉生斗の肩が布団から出ているが、服を着ていない。

 初日に注意してからは寝衣をきちんと着ているのにー、胸の中で不安が鳴り響く。

「ん?アレクかー」

 琉生斗は寝惚けながら身を起こす。やはり、上半身裸だ。

「んっ」

 琉生斗はアレクセイにキスをねだった。もちろん、唇を重ねる。そのまま琉生斗は頭をアレクセイの肩に預ける。アレクセイは抱きとめて思う。


 ズボンも履いていないーー。


 数ヶ月の内に、琉生斗は美しさに凄みが出てきた。神々しさに、磨きがかかってきている、というべきかーー。


 心配にならない訳がないーー。


「ルート」

「なんだよ。声が怖いぞ」

 眠たそうに琉生斗は顔を上げる。

「服はどうした?」

「服ーー。あー、暑かったから脱いだ」

「本当は?」


 おれ、疑われてるのかよーー。


 琉生斗は目を細めた。服着てないぐらいで勘弁してくれ、と言いたいがーー。普段と違う事をこのタイミングでするのは不自然なんだろう、と考え直す。


 ーーおれは、王子の寝室に浮気相手を連れ込んだ、と思われてんの?神経図太すぎるだろーー。

 まっ、こんな事で疑われんのもめんどくさい、と琉生斗はアレクセイに真実を語る。

「おまえいないから、ちょうどいいや、って、ナニしてただけだよ」

 琉生斗はできるだけ、何でもない事のように言った。事実、生理現象だ、恥ずかしがってもしょうがない。

「ナニ?」

「あー、こっちでは違う言葉か?」

 拭いたタオルどこやったかな、と琉生斗は布団の中を探した。

「まさか、自……」

「はっきり言うな!ばか!」

 そっちの言葉の方が絶対恥ずかしい。

「ルート、そういう事はなぜ私のいるときにしない」

「ばか!普通、一人でするもんだろ!」

「手伝いを……」

「いらんわ!」

 何を手伝うつもりか、と言い合いになる事一時間、琉生斗は折れた。

「はいはい。今度ね」

 やけっぱちである。

「必ずだ」

「おまえちょっと変態要素入ってきてないか?」

「そうだな」


 そうだなー、じゃねえわ。


「もう、おれ寝るよー」

「今日は何をしていた?」

「午前中はクリスと遊んで(乗馬)、昼からマシュウじいちゃんの講義と神殿でお祈りー」

「クリスに何をされた」

「おまえ、もう休め!頭おかしいぞ!」

「明日の予定は」

「あぁ。地方の病院をクリスと訪問……」

「また、クリスか」

「おまえの国民の為だろ!もう、いい加減にしろ!向こうへ戻れ!だいたいおまえがいない間、おれの事をクリスに頼んだのはアレクだろ!」

 と、琉生斗は至極まともな事を言った。


 叩き出したいのを、阻止され、琉生斗はアレクセイにすっぽり包むように抱きしめられる。

「愛している、ルート」


 ーーそれでごまかしてもなー。


 そのまま組み敷き、アレクセイは琉生斗の乳首を噛じる。


「ぎゃぁぁぁぁー!何すんだ!」

「かわいすぎて」


 ペロッ。


「ぜってー殺す!」

 真っ赤になって抗議をする琉生斗に、アレクセイは真剣な眼差しになる。

「きみになら、喜んで」


 ぎゃああぁぁぁぁ~。


 琉生斗は恥辱死したーー。

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