第27話 魔法騎士大演習 2

 東堂のいるトルイストチームは、湿地帯から始まり、ジメジメした空気と戦いながら、行軍を続けた。


 暑さがないのに、じとっとする。沼地に足を取られそうになる。行軍が順調に行かず、トルイストもイライラしがちであった。

「もうすぐ湿原を抜ける、そこからさらにペースを上げる」

 魔法騎士の中でも若手が集まっていた。だからこそ、難所からのスタートなのかもしれない。


 ーーアンダーソニー士長、女性に甘いからなー。ファウラの方は、いい道通ってるんだろう。


 トルイストは思う。


「あー、靴の中がグチョグチョするー」

 歩きずれっー、と東堂が愚痴た。

「湿地帯を抜けたら靴を替えるよ」

「あぁ、もうすぐ脱ぎたい」

 自分が沼にハマったのが悪いのだが、モロフが引っ張ってくれて助かった。軍靴を初っ端から駄目にしたのは、痛すぎるミスだ。

「おっ、景色が開けてきたじゃん」

 広い山なんだな、と東堂はみえてきた外の景色を見て思う。

「高いなー。しかも遠い」

「ペース上げるらしいから、がんばってついて行こうぜ」

「あぁ!」

 広い湿原のまわりを歩いて行く、静かだなー、と東堂は感じた。鹿ぐらいいそうなもんだがーー。見当たらないー。晩飯ように、欲しいなー。


 鳥一羽もいないなんてーー。


「うわぁー!」

 先頭付近から悲鳴があがった。


 東堂が先を見ると。伸びた腕のようなものが、騎士達を巻き付け、湿原に取り込もうとしていた。

「おい!魔物かよ!」

「魔法使用、許可!」

 トルイストの怒号が響いた。

炎天ハイフレア

 炎で腕を切り落とす。

「あっ、バカ!」

 東堂は叫んだ。落とした先は、湿原だ。

 と、そのとき、


「うわあああぁぁー!」


 騎士達の悲鳴が聞こえる。攻撃をした途端に、無数の腕が飛んできたのだ。

「カウンターかよ」

 東堂は唸る。落ちた騎士達は『エア』で回収されていたが、落ちる前に助けてあげないとな、と東堂は思った。


 まっ、俺も偉そうな事は言えないがーー。


 東堂は、湿原の中に、木の根が連なっている部分を確認した。

 足場は確保出来そうだが、それか湿原を凍らせるのはどうだー。カウンターがどうくるかだー。


 考えを巡らすが、そもそもあの腕の主は姿を現さない。腕だけである。


 腕が四方八方から飛び出てきた。


 こちらも攻撃して、かわせばカウンターが飛んでくる。しかし、斬るしかない。

 魔法騎士達が、一斉に攻撃した為、カウンターの腕が、スピードをあげて騎士達を襲った。


「あぁぁぁーー」


 引きずり込まれる。なす術がないまま、このまま全滅なのか。

「くそったれが!モロフ行くぞ!」

「えっ、どうすんの!」

「感だ!」

 東堂は、魔法で自分の足元だけに足場を作った。跳躍し、腕に捕まる騎士を、解いて助けようとする。

 腕が東堂に伸びてくる。シールドの魔法でやり過ごし、外した騎士をモロフが風エアで受け止める。

 何人かを助けても、また腕に捕まる。

「こいつの本体引っ張り出せねぇか」

 真下に、撃ってみるか。

 相撃ち覚悟で、東堂は魔力を練った。

「モロフ!シールドを頼むぜ!」

 もちろん、他の騎士達にだ。

氷の槍アイスランス!」

 氷でできた槍が、空中から出現し、湿原へと振り込んだ。


 湿原が揺れる。


 ばしゃあ!ばしゃばしゃ!


 鈍い水音と共に、顔のない泥人形のような魔物が顔を出した。腕が無数に飛ぶ。モロフと共に、騎士達はシールドで防ぐ。跳ね返せば、また腕が飛ぶ。


 厄介な魔物だなーー。海坊主みてーななりして。いや、実際は海坊主なんて見たことないんだけどー。


「俺の魔法じゃなぁー」


 とどめはさせないーー。東堂は初歩の魔法しか習っていない。他の騎士達で火力が強い魔法が撃てる奴は、トルイストだろうが、動く気配がない。 

「おい!おまえら、火で強い魔法、ぶち込め!」

 弱ければカウンターを食らうが、やらなければ、敗北してしまう。シールドにも個人能力の差が出る為、確実に防げるかわからない。


 実戦経験の浅さが、濃く出ている、と東堂は思う。


 若い奴ばかりだと有利だな、っと思ったが、やはり経験豊富なベテランは大事だ。

 若い騎士達は訓練では言う事を聞くのに、実戦では身体が動かない、トルイストも動かしにくいだろう。

「おいおい」

 東堂の声など聞こえないのか、騎士達は混乱を極めている。

火の玉ファイヤボールでも撃ち込むか」

 数で応戦してみよう、と思ったとき。

「貸そうか。魔力を」

 えっ?、と東堂が振り返ると、アレクセイが沼の上に立っていた。

「何人か魔導師に回収されたな」

「えーマジで!」

 もっと根性出せよーー。

「マジ、魔力貸してくれんの?ルール違反じゃねえ?」


 ちょっと嬉しい。


「駄目だ、とは言っていない」

 そういえばそうだ。アレクセイを利用しては駄目、とも言われていない。

 東堂はやる気になった。どうせなら超すごいのを撃ってみたい。

「何を撃つ気だ」

「あー。炎を使いたいんすよ。弱そうでしょ?」

 アレクセイは頷いた。

「正解だ。沼の魔物オデロ。近くを通る生命に反応する。攻撃すれば反撃がくる。ただ、奴の住む湿原の近くには生き物がいない。虫ぐらいだ」

「なるほど、回避できなかったのが、ミスなんだな」

 アレクセイは頷く。

「のんびり魔物と対峙していると、間に合わないが」

「のんびりしてねーつうの!」

 ルートに、東堂と葛城は頼むよー、とは言われているが……。アレクセイは少し考えたのち、東堂の背中に手を当てた。

「わかるか?頭に書き込んだ」

「お、おぅ!」

 アレクセイに背中を押された東堂は、両手を前に出す。高密度の魔力を練り上げる。


 ーーすげー、やべぇーー。


 手から、バチバチ、と出る感覚。最高位の魔法だ。


 一気に決めてやるーー。


地獄の業火ヘルファイア!」

 赤と黒が混じる炎の柱が出た。オデロは一瞬で蒸発し、沼がグツグツと燃え盛る。

「ひゃあーー!」

「上出来だな」

「すげぇー」

 腰が抜けそうになるのを、アレクセイが背中を支えてくれる。

「サンキュー殿下。さすが男前!」


「トードォ!」

 モロフが驚いた表情で駆け寄る。

「すごすぎだよ!」

「いやいや、借りもんだよー」

「いやいや、いずれ撃てるようになるよ!」

 モロフの言葉に、東堂はアレクセイを見た。

「素質はある。普通は頭に書き込んだぐらいでは撃てん」


 おほっ~~。


 東堂はにったり笑った。これで、美花には遅れを取らねえぞ。

「隊列を組み直してるぞ」

「うすっ!行きます!」


 休む間もないなーー。

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