第23話 魔法騎士大演習準備 3♡
そして、きゃあーーー、めっちゃイケメン!すっごい!なんでこんなに整ってるのーー!
と、ミーハー全開の美花であった。
怖いよりも、カッコいいの方が先に立つ。
ーーいーな、ルート。こんなスパダリ最高じゃないー。あたしも聖女だったら、取り合ってたのかしら。
まぁ、あいつ自身もきれいな顔してるから、超お似合いなんだけどーー。あれ?あたし振られる感じ?
あいつ、女受けいまいちだったけど、元々男が好きだったのかしらねーー。そこどうなのかしら?
兵馬からそんな話聞いたことないけどーー。やっぱり金髪王子より、あたしもこっち推しだわー。なんかあの人、誠実さに欠けるのよね。
これだけの事を一瞬で考え、美花は剣を構えた。身体が覚えたことが、自然にできた、という感じである。
ーールート、結婚式で、ドレス着るのかしら?お揃いのタキシード?いや、中華風のドレスが似合いそう。
美花は様々な結婚式の衣装を想像する。
素材がいいから、何でも似合うわねーー。
あたし、作りたいなー。手芸部の血が騒ぐわ。
結婚式ってすごい素敵よねー。衣装が、ほんとキレイでーー。
『ルート、幸せになろう』と、白いタキシードのスパダリ。
『何言ってんだよ。ーーおれがおまえを幸せにしてやんよ』、白いタキシード丈長めのルートはこんな感じかなーー。ブーケは、白いカラーなんかいんじゃないかしらーー。
鐘が鳴り響き、白い鳩が飛んでいくーー。
なんか、めっちゃ感動してきちゃったーー。
ぐすん、と自分の妄想で泣いた美花に、皆が同情した。
ーー怖いのに、なんて根性なの。
ーー強い子だ。
とりわけ、数少ない女性騎士達が、とても同情した。美花はこのとき、怖さを堪えて頑張る小さな女の子に見られていた。
「ミハナ、どうする?」
ヤヘルが聞いた。美花は現実に戻された。
「あっ、無理なんでここでやめます。でもせっかくなんで、魔法を教えて下さい」
全員が固まった。
アレクセイは小さく頷いた。
「何が知りたい?」
「炎の魔法で、
アレクセイは美花をじっと見つめた。
ーーきゃあ、見つめられちゃったわよ。後でルートに怒られないかしら、殿下。
何で、殿下が怒られるんだよ、と東堂なら言うだろう。
「ミハナ、おまえは他の魔法も駄目だろう」
美花は大きく目を見開いた。
「そうです。水も、土も、風もダメなんです。炎だけがなんとか出るぐらいで」
「おまえは、下位の魔法は撃てない」
「はい?」
「魔力の元が、そうなっている。それを変えるのは難しい。魔力元素を別物に書き換えるか……」
アレクセイは考え込むように自分の手で顎を押した。その人間ぽい仕草に女性陣が見惚れた。
「いまはその魔法の最高位を練習して、出力を調整するしかない」
「は、はあ」
「ヤヘル。結界で、受けろ」
「ルッタマイヤ助けてくれー!」
将軍二人に結界を張らせ、アレクセイは指を鳴らした。
「
炎の大渦巻きが、結界にあたる!
「「くっ!」」
将軍達は後退りそうになりながらも、両手を大きく広げ、魔法の出力をあげた。
「だりゃあ!」
ヤヘルの力技でなんとか受けきった。
「これを、あたしができるようになるんですか?」
美花は目をパチクリした。
「とりあえず、ここからだ。使い方を誤らないように。ファウラの下に付いて見てもらえ」
「は、はい!ありがとうございます。もう一つよろしいですか?」
ヤヘルは目を見張った。他の者も同じ顔をしているだろう。
何という剛胆な精神ーー。
「ファウラ様のときに、殿下、剣を受けて、足払いしましたよね?東堂のときも蹴りをいれましたがー」
「見えたかー」
「は、はい」
ヤヘルが口笛を吹いた。初見であれが見えるとは、東堂といい、聖女様のお仲間はやはり違う。
「騎士らしい戦い方ではない、と」
「えっ!あっ、まぁ習ってる事とは違うなぁーとは思いますが……」
「まず、根本的な事を言うが、私は騎士か?」
「あっ!」
「名誉の為に、死んでる暇はない」
「……はい」
わかったような、わからないようなーー。
顔をあげると、アレクセイは自分を見ていた。薄く笑っているように、美花には見えた。
「アレクセイで殿下、お忙しい中、ありがとうございました」
アンダーソニーが、恭しく頭を下げた。
「しかし、ますますお強くなりますなー」
「そうか?」
「えぇ。守る方があるのは、良い事です……」
アレクセイはアンダーソニー達の将軍室に戻ろうとして、ふと、兵士宿舎と大演習室をつなぐ渡り廊下の屋根を見上げた。
「殿下、どうなさいました?」
アンダーソニーがアレクセイと同じ方向を見て、あぁ、と微笑んだ。
屋根からひょっこり顔を出したのは、聖女琉生斗である。アレクセイに気付き、にこりとし、そのまま屋根から飛び降りる。
もちろん、アレクセイが受け止める。
「まだ逃げているのか?」
「ミハエルじいちゃん、うるせえーんだよ」
教皇のお説教から逃げ回っている聖女様である。
「もう、お祈りお祈りって、これ以上おれは何を祈るわけ?」
「そうだな。難しいな」
アンダーソニーが笑っている。
「おぅ、ソニーさん。何してんだ?」
「いえいえ。たいした事はありません」
琉生斗はアレクセイに抱きつくように身を起こし、彼の肩越しに後ろを見る。
そして、目を見開いた。
「と、東堂ー、か、葛城……」
彼らに気付き、琉生斗は黙ってアレクセイの腕から降りる。
「なんで言ってくれねーんだよー」
泣き出しそうである。
途端に東堂が笑い出した。転げ回る程の笑いである。
「ちょい、アレク。あいつ始末しろ。この前の魔法、あれがいい」
「
「殿下、おやめ下さい」
手のひらを動かしたアレクセイを見て、アンダーソニーは微笑んでいる。
「あんた」
美花も笑っている。
「やっぱりラブラブなんじゃない。騙したわね?」
琉生斗は視線が泳いでいるが、アレクセイの服をしっかり掴んでいる。
「あっ、聖女様!教皇がお怒りですよ」
白いローブを着た男達が、琉生斗を追いかけてきた。
「もう、行きゃいんだろー。ま、またな」
「あぁ」
琉生斗は神官に脇を固められ、逃げられないように連れて行かれた。
琉生斗の後ろ姿を、アレクセイは見えなくなるまで見つめていた。
まぁ、純愛だわ。
美花は胸がときめいた。
実写版、「ムズキュン」だ。町子や花蓮と読んでいた漫画だ。ツンデレ主人公をめっちゃ好きなスパダリの話。
ーーいやん。素敵。
その後、アレクセイは将軍達との会議に参加した。
組分けの話を聞きながら、紅茶を飲んでいる。
「大隊長三人を大将にしたいところですが、マリアが産休中ですので、代わりにパボンに入ってもらいます」
「あぁ」
澄ましたアレクセイを見て、アンダーソニーは、下を向いた。
「おまえ達ーー」
アレクセイは、溜め息をついた。
「笑いをこらえるな」
あははははははははっ。
ぷぷぷぷぷっ。ほほほっ!
がっははははっ!
三人の大笑いに、アレクセイは目を細くした。
「精神も見ると言ったのに、あの二人」
「がっはははは!殿下ー!むっつりスケベなんですかーー!」
「ーー下品でしたけど、あれで奮起し、殿下に立ち向かえるようになるとは……」
ある意味、天才である。
「いやはや、想像を越えるエロスに、殿下は引かれてしまったのですな」
あはははははっ。
「いや、どうやるのか、少し考えていた」
「そりゃ、やっぱり殿下、むっつりスケベじゃないですかーー」
澄ました顔してー、とヤヘルが一番笑っていた。
そう、剣技、魔法、精神を吟味するという事は、精神状態を調べる為に、意識を読む、という意味だったのだ。
東堂の、えげつないエロ妄想も、四人の頭の中にしっかりと映し出されたわけだ。
「殿下、すごい事してましたねーー。こっちが恥ずかしいですなぁー」
ヤヘルが豪快に笑った。
「現実には、やっぱりまだですか?」
小声になって、尋ねる。アレクセイのふてくされたような顔に、三人は大笑いした。
「て、鉄の処女とは、上手いこと言いますなー。さすが聖女様。殿下の美貌に落ちないとはーー」
「いやいや、あの小僧は気に入りました。私が責任をもって育てましょう」
「ヤヘル、おまえさん、緊縛プレイが気になっとるだけだろ」
「そういう士長は、凌辱プレイが気になってしょうがないんでしょ」
騎士団のトップの掛け合いに、ルッタマイヤは呆れた表情を浮かべた。
「ミハナの意識はよかったですね。なんて幸せそうな、お二人だったのでしょう」
「そうか。何点か着せてみたい服があったな」
「二人共、事実を知ったら仰天しますわね」
ふふっと、ルッタマイヤは笑った。
それにしてもーー。クリステイル。
おまえは彼らに何をしたのだ?
兄としてアレクセイは少し心配になった。
「それでさ、花蓮に付いてくれてるのが、司祭のイワンさんなんだけどさ」
琉生斗に話しかけられても、アレクセイは上の空でいた。
「おい、アレク。人が真面目に聖女の仕事をしてんのに、話も聞かねぇのか」
自分の手が、勝手に琉生斗の背中を撫でている。それに対し、琉生斗は何も言わないで撫でられている。
「いや、聞いている」
もっと、激しく触りたい。ここを、あぁしてーー。
手がお尻の手前でとまる、いや、とめた。
「で、ミハエルじいちゃんがなーー。てかミハエルじいちゃんてさーー」
聞いているのだが、まったく内容が入ってこない。
気を抜けば、気を抜いてしまったら、
襲ってしまうかもしれないーー。
「もう、寝るか?」
琉生斗はおやすみのキスをねだり、アレクセイはこっそり呼吸を整え、色々堪えながら、めちゃくちゃキスをしたーー。
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