第22話 魔法騎士大演習準備 2

 馬鹿にしやがって、構えられたらだと?


 すぐに俺の勝ちじゃねえか。何が王国一だ。負けたときの言い訳にもならないだろーー。


「組分けの参考に、剣技、魔法、精神を私共で吟味します。殿下もお願い致します」

 アンダーソニーの言葉にアレクセイは頷いた。

「わかった」



「はじめ!」

 ヤヘルの合図で、開始される。


 


 瞬殺してやる!


 やる気充分で、ガシュラは剣を抜こうとした。



「!」

 瞬間、ガシュラは死を側に見た。

 自分の近くにそれがあるのを、しかと感じた。


 て、手が動かないーー。


 手だけではない、目は強張り声も出ず、ましてや足など勝手に震えだす。



 何だ、これ、何の魔法だよーー。



 アレクセイは剣身を軽く持ち上げただけだ。

 魔法など、使う必要もなかった。




 必要なのは、闘うという意志だけ。

 それが、闘気となって、ガシュラを圧倒する。




「構えないのかー……」

 静かに尋ねられる。

「む、無理で、すーー」

「そうか。次ーー」

 青ざめたガシュラは、腰を抜かしたまま救護班に連れて行かれた。騎士達の間に激震が走った。


 ーーどういう事だ?

 ガシュラは弱い男ではない。






「うっわぁ。えげつねー」

 額に汗をかきながら、東堂は見ていた。

 プレッシャーが半端ねぇ。あれじゃほとんどが駄目だろう。


 ーーありゃ、死線を越えるレベルじゃねえ。もっといってんなーー。殺気なんてかわいい話じゃない、と東堂は身体に震えるものを感じた。


 ーールート、おまえよくあんなんと結婚できるなー。 

 DVかまされてねえかー。東堂は心配になる。


「次」

 アレクセイは構えてもいないが、次から次へと騎士達は降参した。


 王国の栄えある魔法騎士が、震えて口も聞けないような姿は見たくないーー。上が嫌がる訳だ。

「お願いします」


 おっ。


 東堂の上官にあたる小隊長ジップが礼をした。

 気合を入れて立っているのか、反り気味だ。

 がんばれーー、と東堂は心の中で応援した。何せ、誰も一言も話さないので静かすぎて、恐怖が増す。

 ジップは青い顔色をしながらも歯を食い縛り、なんと剣を抜いた。剣先はぶるぶると震え、一歩も出そうになかったが、それでも彼の勝ちだ。


「来るか?」

 アレクセイが尋ねると、ジップは首を振った。

「よくやった!」

 ヤヘルが手を叩いてジップを讃えた。ジップは気が抜けながらも嬉しそうな顔をした。


「おっ、小隊長すげぇじゃん!」


 ジップの勇気に影響を受け、その後数名が構えを取ることが出来た。


 すると、


「お相手願います。殿下」

 大隊長ファウラが闘技場にあがる。

 騎士に似つかわしくない風貌の優男。剣技より魔法の方を得意とする、まだ二十代の若い大隊長だ。


 歓声があがった。


「だ、大隊長が出てきたぞ」

「ま、まじかよー!」

 自分達の上官のさらに上。

 合図をするヤヘルも、どうしたものか、という顔をしている。


「恥をかくぞ」

 ぼそり、とヤヘルは言う。

「士気をあげようと思いまして」

 ファウラは礼をする。

「はじめ!」

 ファウラはすぐに構えた。

 さすが、とヤヘルは思ったが、問題は実はここからなのだ。


 アレクセイは剣身を軽く持ち上げているだけなのに、どこにも付け入る隙がないのである。


 どこに入れるか、考えてはいけない、とにかく動く、それが恐怖に打ち勝つコツである。

 ファウラの疾さに、騎士達が息を呑んだ。これほどのスピードなら、


「えっ?」




 カチリー。




 アレクセイは剣を鞘に納めた。



 ファウラは彼の後ろで倒れていた。




「!!!!!!!!!!」




 魔法騎士達に激震が走る中、ファウラはゆっくりと立ち上がった。

「はぁー。まだ足元にも及びませぬな。走力強化アクセラレーターを使ったんですよ」

 ファウラはがっかりしたように言った。

「殿下が十二のときから、ちっとも相手になりませんな」

「そうだな」

 アレクセイは、少し笑みを浮かべた。

 ファウラは目を見開いた。今まで笑ったところなど見たこともなかったのに。




「次は、トードォ!行って来い!」


 えっ?もう俺の番ー?


 東堂は慌てて闘技場にあがった。



 ひゃーーー!


 近くで見ると、どえれーべっぴんさんだな、こりゃー。


 東堂は顔には出さなかったが、内心アレクセイの美しさにやられた。


 


 同じ男だよな?いや、もしかしたら女だって事隠してるとかーー。


 何にせよ、あいつ的にはドストライクなんだろうなーー。あっちじゃ、告られようがすべて好みじゃないと振ってきたのに、いきなり婚約とはな。

 ダチとはいえ、性癖はわからんもんだー。顔は金髪と兄弟だからそう差はなさそうだが、まぁ、あいつはみんな胡散くせーって言ってたけど。


 でっ、なんだこの圧、なんでおれみたいな雑魚に、こんなバリバリしてんだ?


 絶対にさっきより強くないか?


 まぁ怖い事。圧で死ぬってこういう事なのねんー。不良の先輩なんかとは格が違うな。

 何とか恐怖に打ち勝つように、しねえとなー。


 こういうときは、あれだ!


「ちす!東堂です。よろしくお願いします!」


 元気だけは失くしてはいけない。

「はじめ!」


 号令がかかっても、東堂は動かなかった。

 誰しもが、あの新人では無理だろう、と思っていた。たとえ、聖女様のお仲間でも。


 


 東堂は息を深く吐いた。




 ーーこんなきれいな顔してっけど、ぜってーむっつりスケベに違いねぇ。相手があの鉄の処女じゃ、たいしたことはヤラせてもらえないだろうから、妄想がエグいことになってんだろうよーー。



 東堂は、剣を構えた。剣道の中段の構えになったが、第一段階はクリアした。

 そう、東堂は、エロい事を考えて、恐怖心を失くしているのだ。


 エロは生存本能だ。これがあるから、今日も生きることができるー。元気の源だー。



 ーー前からあれをこうして、うわ、イケメンのそれはやべーだろ。死んじまう破壊力だぜー。もちろん後ろからは絶対外せないーー。四つん這いにさせてだなーー。ここを、ちょいちょいいじってだ。


 

 東堂はアレクセイを見据えながら、とても元気になっていた。




 ーー最終的には緊縛プレイに凌辱プレイも外せませんなーー。目隠しなんか、絶対好きそうー。後ろで手を縛って、うわっ、ちょっとこれ以上はえげつねぇわーー。


 


 ゲスいながらも顔には出さず、わずかな隙がないか目を凝らし続けるとー。


 んっ?


 圧が引いた。



 今だ!



 東堂は駆け出した。真っ直ぐに突進する。

「あー!バカ!東堂!」

 美花は叫んだ。

 アレクセイが手を動かす、東堂は叫ぶ、

縮小シュリンク!」

 自分に小さくなる魔法をかけ、アレクセイの一刀をぎりぎりのところでかわし、剣を闘技場に突き刺し、

戻るリバース!」

 元の大きさに戻り、遠心力で、アレクセイに蹴りを食らわせるーー。


 バシっ!


 足が届く前に、東堂の腹をアレクセイの蹴りが直撃した。受け身が取れずに闘技場から転がり落ち、東堂は、ギブ、と言った。


 わぁ!


 歓声が沸き起こった。


「骨折れたーー」


 痛ってぇぇー。


 救護班に運ばれて行く東堂を、感心した表情でヤヘルは見送った。ヤヘルの顔がにやける。


 おっと、いかんいかん。


「次は最後みたいだな」


 うわぁ。あたし、最後なのーー?。


 美花は恐る恐る闘技場へと足を入れた。

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