第10話 聖女は苦悩する 2
「え?ダメなのか?」
まさかの、教皇からのNGをくらうとはーー。
琉生斗は眉根を寄せた。
「何でなんだ?修行はいいんだろ?」
「ええ、修行は毎日でも来てください」
「じゃあ、住んでもいいじゃん」
琉生斗は足を組んだ。ふてくされた態度を取る。
「聖女様の安全が第一ですので。王宮以外の泊まりはアレクセイ殿下の付き添いが必要になります。殿下の付き添いがなければ、国王陛下が許可をだされません」
こんなに近いのにあのおっさんの許可がいるのかよ、と琉生斗は苦々しい気持ちになった。
「アレクと別れたい場合はどうすんの?」
ミハエルは眉をあげた。
「寵愛が足りませんか?」
「そういう事じゃない」
「別の王族と一緒になるだけです。それとも別の国に行きたいのですか?奪い合いで戦争になりますよ」
琉生斗は黙った。
しばらく考えた後、口を開く。
「なんか、申し訳なくてーー」
「なぜです?あなたはこの国、いえ、この世界の宝なのですよ」
そんな自覚がもてるかよ、琉生斗は盛大な溜め息を吐いた。
「おれの為にいろいろ犠牲になってんじゃん。あいつー」
琉生斗の思い詰めた溜め息を引き継ぐように、ミハエルも盛大すぎる溜め息をついた。
「なぜ、時空竜の女神様は魔蝕の浄化を聖女に託すと思われます」
「魔蝕が神々の干渉対象外だからーー」
マシュウの授業で習った事を答える。
「そうです。自然界の災害には神々は干渉されません。魔蝕は自然界の災害となっています。ですが、その被害はあまりにも大きい」
ミハエルは目を閉じた。
「時空竜の女神様のお慈悲により、浄化の力をもつ聖女をあちらの国から召喚します。あちらの国の人だからこそ、こちらの自然災害に逆らう、理ことわりを変える力、を与えられるそうです」
だから?と琉生斗は目を細めた。
「あなたに何かあっては、この世界が終わります。それはおわかりいただけますか?」
わかんねーわ、と言えたら楽になるのかもしれない。
「だからこそ、アレクセイ殿下はあなたの護衛として、最強であり続けます。殿下を信じて側にいなさい」
ミハエルの真摯な言葉に、琉生斗はゆっくりと言葉を吐いた。
「ーーミハエルじいちゃんは、それでおれがダメになってもいいのかよーー」
琉生斗は頭を掻いた。
「あなた、そんな繊細な人間じゃないでしょ。騙されたと思って、素直に愛されていなさい」
ミハエルの愛のある説教に、琉生斗は舌を出した。
「べぇーだ」
ミハエルとの話が終わり、琉生斗は大神殿の柱を拭き掃除していた。
脚立を借りて、高いところの埃を掃除する。
普段サボってねえか、神官達、と蜘蛛の巣を取りながら思う。まぁ、蜘蛛の巣って一晩あれば糸張るしねー、と考えていると。
「ルート」
馴染みがある声がする。
「ん?アレク」
珍しいなー、神殿に来るなんて。
「いま、降りるー」
「いや、邪魔をした」
アレクセイは、静かに言葉を発した。そして、神官に先導されて教皇の部屋の方へ行ってしまった。
「なんだよ、まったく」
かまうならちゃんとかまえよな、と琉生斗は無茶苦茶な事を考えた。
休憩中、大神殿の中ならどこでも行っていいと言われ、琉生斗は裏庭の森を散歩していた。
花蓮のところに行こうとしたら、「聖女様が来たら大混乱になるから」と兵馬に断られた。
「おれと花蓮の仲を引き裂くな」
と、言うと、
「裂かれてダメになる関係だっけ?」
兵馬に心底呆れられる。
最初から何もないじゃん、と親友はひどかった。
いいじゃん、ちょっとした夢じゃないかーー、あんな心がピュアな女、花蓮しかいないじゃん、と琉生斗は思う。
後は、赤ちゃんぐらいだなー、となかなか失礼である。
「でっけー、木ー」
クスノキだな、と琉生斗は思った。まるであのアニメに出てくる大木を見て、思わず穴を探す。
大きなクスノキが連なる森の中、気になる木を見つけて近付くと。
「うっそーー」
なんと、木の根っこに隠れるように穴があいている。
どこまでつながっているのか、ワクワクしながら覗いて見る。暗くてよく見えないが、人一人は入れそうである。
「ひゃあー」
楽しくて仕方がない。
琉生斗は足元に気をつけて、降りていく。思った以上に中は広い。立って歩けるぐらい、広くなっていく。
「こ、これはまさか!」
昔から住んでる主にあったらどうしよう、と琉生斗はドキドキがとまらなかった。
目が慣れてくる。さすがに光があるところはなく、行けども行けども、洞穴だ。
「うん。洞穴だな」
誰かが掘ったのか、自然にできたのかー。
「引き返そう、休憩終わるしーー」
そう、思ったときだった。
穴の奥から何かが動く気配がした。
「そんな、まさか!」
本当に!と思った琉生斗の顔は、次の瞬間恐怖に変わる。
「ちょ、マジかよー。あっあーー」
アリーー!
琉生斗よりやや小さいアリの大群が、琉生斗目がけて走ってくる。
琉生斗は元来た道を走り出した。だが、すぐにアリに追い越され、琉生斗はアリに囲まれた。
動く隙間もないほど、アリで埋め尽くされた。
「おれはおいしくありませんーー」
という無駄な台詞もむなしく、アリの大群に琉生斗は洞穴の奥へと連れて行かれた。
「せめて、丸かじりで!少しずつは嫌です!」
琉生斗の声はアリの動く音で、掻き消された。
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