第2話 クラスメイトと流されて2
あー、まじかー。
美花と町子の顔に悲壮感が漂う。花蓮はにこにこしている。たぶん意味がわかっていない。
差別ではないが、花蓮は発達がゆっくりな部分があり、目の前の状況にすぐに追いつけないところがある。本人も普通校か支援校で、親がもめたと言っていた事がある。
もし花蓮が聖女なら、全力でサポートしよう、と二人は目を見合わせた。
「あたしからやるわ」
緊張でもどしそうになりながら、美花は台の上の首飾りに手をのばした。
はっきり言って意味がわからない。こんななんてことのない首飾りで、自分の運命を決められるなんて。
銀細工の竜と目があったような気がした、ゆっくりとふれる、そのとき、
バチっと跳ね返すような青い光が走った。
美花の心臓はひっくり返りそうになった。この反応はどちらなのか!
「これはすごい!貴女には魔法騎士の資質があります!」
王子が感嘆の意を示した。
美花は、力が抜けた。自分ではなかったらしい。安堵で頬が緩んだが、二人には見られたくなかった。
「うわぁ~。花蓮、二人同時にさわろ~」
町子が言うと、花蓮は素直に頷いた。
「美花じゃなかったな」
「姉さんが聖女なわけないよ~。鬼女だよ~」
後で殴る、美花は弟を睨んだ。
「どうせ、花蓮だろ」
「なぁ、聖女以外の奴はどうすんだ?」
琉生斗が真面目な話を持ち出した。
「もちろん、我が国で手厚くもてなします。住居も当然王宮内に構えますし・・・」
「えっ!帰れない感じ?」
王子の言葉を遮って兵馬が叫んだ。王子の顔色が曇る。
「帰れない事はないのですが、魔法陣も複雑で組み上げるのに、年月がかかりますし。転移に必要な魔導具集め、年月が必要な物もありますし・・・。そうですね、五十年後ならなんとか」
「・・・それは、かかりすぎだろ」
「姉さんは、魔法騎士になれるとして僕達どうする?」
話し合う男達は置いておいて、町子は息を吸い込み、花蓮を促して聖女の証にふれる。
バチっ!バチバチっ!
二人共に弾かれる。町子からは黒い光。花蓮からは赤い光が出た。
「何々~?」
町子の問いに、王子は落胆した表情を見せながら答える。
「黒い光は、魔導師。赤い光は吟遊詩人や歌姫などの資質です」
悲しそうに王子は言った。
あらま~、と女性陣。
「おい、聖女いねえじゃん」
東堂が呆れたように言う。
どういう事なの?美花達も訳が分からない。お互いを見回す。
「そうですね。次は貴方がたの番です」
んっ?
王子の言葉に東堂は吹いた。
「なんでだよ!聖女だろ!」
噛みつく東堂を見ながら、兵馬が唸るように言う。
「まさか、聖女って役職名なの!」
「んっ?どういうことだ」
東堂はピンと来ていない。
琉生斗はわかったのか、マジかよ、と一言。
兵馬は引きつりながら答える。
「だから、部長とか、副部長みたいな、肩書きみたいなもんなんだよ。もしくは職業」
「性別は関係ないのか」
「おいおいおい!もう、確率が6分の1から3分の1になってんぞ!」
東堂が、がなる。絶対に自分は違うという自信はあるが万が一という事もある。
ーー似合わねえだろ!冗談じゃねえ!
他の二人よりごつい体格の自分が聖女なんて、お笑いでしかない。きもい、想像で吐きそうになる。
東堂は自分のシスター服姿を想像した。
聖女と言えば、シスターだろーー?
「ちなみに、聖女になったら日給いくらもらえますか?」
兵馬が尋ねた。変なこと気にするよな、と琉生斗は隣の眼鏡の親友をまじまじと見た。
「そうですね。そちらの紙幣価値がどのぐらいかわかりませんが、貴方がたが望む以上に差し上げます。そして、さらに特別な報奨があります」
王子は微笑んだ。
「何?どんなの?」
「私の妻に迎えます」
「「「罰ゲームだろが~!」」」
三人が一斉に叫んだ。
堪えきれずに美花は吹き出した。さっきまでの余裕はどこにいったか、三人で聖女を押し付け合っている。
「さっさとやんなさいよ。王子様困ってるでしょ」
「そうそう。急いでるみたいだし~」
女性陣に先程のお返しをされて、テンションが下がりっぱなしの三人は、まだうだうだ言い続けた。
「特別報奨いらねー」
「おれ、ガチャ運最低なんだよな~」
ガチャ運なのか。
「あいつ、めっちゃドヤ顔してなかったか?」
「誰が同じもんついてる奴と結婚すんだよ」
「いや、もしかして、ボクっ娘かもしれないよ」
好き放題言われ、クリステイルも落ち込む。
「ねえ、王子様、私達は聖女の召喚に巻き込まれただけなの?」
家には帰りたくないが、あちらの世界に未練がないわけではない。
美花は真面目な表情で王子に尋ねた。王子は、優美な眉根を寄せ、淡々と語り始めた。
「聖女様の召喚に巻き込まれたのはたしかですが、それはあなた方の体内にこちらの魔力があった為、反応したと思っていただきたい。あなた方以外の者は次元の転移に巻き込まれたでしょうが、こちらには来れなかった」
あっ、そうなんだ。みんな、無事だったかな?すごい騒ぎになってるよねーー。
美花はあの場にいたクラスメイトの身を案じた。
「魔法なんて使えるの?」
今まで使えなかったのに。
「もちろん訓練は必要でしょうが、魔力量、質に応じて徐々に使えるはずです。今までは眠っていた魔力が解放される、という事です」
あちらでは、魔力はいらなかったのかもしれませんね。王子は続けた。
「ちょっと楽しくなってきたわね」
「うん」
リラックスした美花と町子の耳に、東堂の雄叫びが響いた。
「よっしゃ! 魔法騎士様じゃーー!」
まだやってたのか、呆れた顔で首飾りの方を見る。弟の顔が死んでいる。
「よっしゃ、よっしゃ!後は、お前らだけだぜ!」
興奮した東堂を疎ましく思いながら、琉生斗と兵馬は聖女の証に近づく。
「同時にさわるよ。恨みっこなしだ」
きりっとした顔で兵馬は言う。
「あぁ」
受ける琉生斗も、覚悟を決めた。
同時に手を伸ばす。兵馬は右手を、琉生斗は利き腕の左手をーー。
首飾りから柔らかな光があふれる。静かに、深く光があふれていく。
どっちだ、とは誰も言わなかった。
なぜなら、兵馬はさわる前に手を引っ込めたからだ。
「あなたが聖女様ですね!」
王子や鎧の男達から歓声があがった。
やれやれ、ようやくわかったのか、と白いローブの老人が溜め息をもらした。
この老人は教皇ミハエル、国のとっても偉い人だ。
「兵馬!やりやがったな!」
琉生斗は怒鳴った。
「僕とルートなら、絶対ルートだと思ってね」
兵馬はふふん、と鼻を鳴らした。自分の弟ながら卑怯だわ、美花は嘆いた。
「あなたの名は?」
王子が尋ねる。
「琉生斗。あっ、妻は断ります」
「ええっ!」
大きな目をさらに大きくして、王子は驚愕する。何をそんなに驚くのか。琉生斗は呆れる。
「あったり前だろ!おまえのどこにボインがあるんだ」
「はぁ」
クリステイルは親指を見せた。拇印ーー。
「そっちじゃねぇわ!何が悲しゅうて男と結婚なのよ!セクシーなお姉さんになって、出直せ……」
「急ぎの用事があるんだよな?さっさと連れてけよ」
東堂が琉生斗を押し出した。
縄にかかった囚人のような面持ちで、これ以上ないぐらいやけっぱち気味に琉生斗は言う。
「ひどいよー。東堂、裏切りだよーー」
「はい。案内します」
王子は丁寧なお辞儀をした。
鎧の男達の殺気を気にもせずに、琉生斗は王子に先導されながら歩き出した。
「兵馬!覚えてろよ!あっ、こいつらちゃん風呂とか入れてやってくれよ」
琉生斗が部屋から出ると、鎧の男のひとりが美花達に頭を下げ「ご案内致します。聖女様のお仲間様」と言った。
それはそれで嫌だなーー。
かくして長くはなったが、聖女琉生斗は誕生した。
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