美について

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  美について



美は短命である

今日ここにあったものが

明日にはもうそこにない


美は永遠である

多くの命を犠牲にして

悠久の時を生きる


美は悪との親和性が高い

赤と白よりもずっと

赤と黒のほうがよく似合う


美はあでやかとは限らない

うらぶれた側面もある

晩秋の落葉が美しいように


美は人の理性を狂わせる

近づきすぎると火傷する

夏の誘蛾灯のように


美は内容空疎である

良妻賢母型よりも

娼婦型のほうが好まれる


美は天邪鬼である

追い求めるところに

きっとその姿はない


美は蜃気楼に似ている

何もないところに

忽然と姿をあらわす


美はときに聖母のようである

幼子を見つめる

母の愛をも併せ持つ


美は傍若無人である

自己目的のために

真や善さえ顧みない


美は極めて性的である

とくに発情期の動物は

その着用に制限がない


美は気まぐれである

あなたが幸か不幸か

さして興味がない


美は王宮のようである

ひとり占めするのが

ふと恐ろしくなる


美はときに一匹の蝶のように

われわれを暗いトンネルから

明るい出口へと導いてくれる


          (了)

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