2道具
俺は割れた窓の外を見つめていた。
隣には険しい顔で眠る魔女。
男がここに来た理由も、彼女との関係もよくわからない。
……なんで俺はこんなことをしたんだろう。
自由になるチャンスだったのに、気づけば彼女を助けていた。
今窓から外に出れば逃げ出せるのに、それをする気すら起きない。
魔女が微かに息を漏らし、ゆっくりと目を開ける。目が合った瞬間、彼女は一瞬驚いたように見えた。
が、すぐに表情が消えた。
沈黙が続き、何か言おうと口を開きかけたとき、魔女俺に問いただす。
「……どうして、助けたの?」
その問いには、なにかもっと別の意味が在る。
そんな気がしたが、
「……わからない。ただ後悔する気がして。」
俺にはそれしか答えることができなかった。
彼女は黙って俺を見つめていた。
「私は、君が助けるべき人間なんかじゃない。」
そこで彼女の言葉が途切れた。何かを飲み込むように、唇を噛む。
「私は……君を、ただの"道具"だと思ってたんだ。」
その言葉は重かった。微かに震えた声は、その先の言葉を言うのを躊躇っているような気がした。
沈黙が続き、しばらくすると彼女が続けた。
「私は、あの男の働く施設で育った。そこでは力を手に入れるための実験をしていた。そこにはたくさんの魔女たちがいて、力をうまく使えない魔女はひどい扱いを受けていた。私もそのうちの一人で、魔法が発動できるまで、数え切れないほどの苦痛を強いられた。毎日が恐怖の連続で、実験室の冷たい壁の中で、私たちは道具同然に扱われていた。」
彼女がそう言って俯く。
冷たい空気が部屋を包んでいた。
「ある日、いきなり実験室の魔力無効化装置が壊れ、施設からたくさんの魔女たちが開放された。
でも、私は弱いから、逃げられてもすぐに捉えられてしまう。それがすごく怖かった。
だから、強くなるために殺しても死ななかった貴方で実験をしようとした。」
「私は施設の人間と同じだった。」
彼女は天を仰ぎ、震えながら言った。
「……私は、何をしてるんだろう」
「でも、今は道具だと思ってないんだろ?」
彼女は涙を流しながら、こちらをじっと見つめ、
「当たり前。君が道具なわけないよ。」
その言葉を聞いた俺はなぜだか無性に嬉しくて
「じゃあもういいんじゃないか?
一緒に施設の人間から逃げよう。」
そう言うと彼女は安心したような、決意したような笑顔を浮かべ、
「ありがとう」とつぶやいた。
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