八:隠れ家での対話



 ネオ・トヨスの地上に出た二人は、周囲に注意を払いながら進んでいた。建物の陰に隠れ、素早く進むその姿は、街の雑然とした影に紛れているかのようだった。やがて、パイは一つの廃墟ビルの扉の前で立ち止まり、デルタに向かって小さく頷いた。

「ここや。うちの隠れ家やで」

 パイは錆びついた扉を押し開け、中に入った。デルタもそれに続いて足を踏み入れると、内部は思ったよりも整理されており、古い家具や道具が所狭しと並んでいた。

「案外、居心地が良さそうですわね」デルタは部屋を見回しながら言った。

「まあな。こんな街やと、隠れられる場所を見つけるのも大変なんや。ここも何度か見つかりかけたことあるけど、今んとこはなんとか無事にやってるわ」

 パイは手近な椅子に腰掛けると、デルタに向かって手で合図を送り、椅子を勧めた。デルタは勧められた椅子に静かに座り、しばらく沈黙が流れた。



「ちょっと休憩しよか。あんたも腹減っとるんやろ?」

 パイは懐から少しの乾パンと水を取り出し、デルタに差し出した。デルタは戸惑いながらもそれを受け取り、感謝の表情を浮かべて口に運んだ。

「ありがとうございます、パイさん。こんな状況で食べ物を分けていただけるなんて……」

 パイは笑みを浮かべた。「ええんや、うちらは仲間やからな」

 デルタは小さく微笑みながら乾パンをかじり、しばしの間、静かに食事を取った。

 パイはふとデルタをじっと見つめた。「あんた、食事が必要なんやな。普通のアンドロイドは食べ物なんて取らんでも動けるもんやけど……」

 デルタは軽く頷いた。「はい、わたくしは生体コンピューターを持っているので、エネルギー補給のために食事が必要なんですの」

 パイは驚いたように目を見開いた。「生体コンピューター……それでか。なんか特別な存在なんやな、あんた」

 デルタは少し恥ずかしそうに視線を下げた。「特別かどうかはわかりませんが、この体にはそういう仕組みが組み込まれているのですわ」

 食事が終わり、デルタが落ち着いたところで、パイは改めて口を開いた。

「それで、デルタ、あんたのことをもっと知りたいんや。お互いのこと、もっと知っとかなあかんと思うねん」

 デルタは少し首をかしげた。「お互いのこと、ですか?」

 パイは頷いた。「ああ。どんな過去を持ってるか、どんな思いを抱えてるか……そういうのが分かれば、もっと強い信頼関係が築けるはずやろ?」

 デルタは静かに頷いた。「わかりましたわ。わたくしのこと、お話ししますわ」



 パイは微笑みながら頷き、「ありがとうな」と言った。そして、静かに耳を傾ける準備を整えた。

 こうして、二人はお互いの過去について話し始めた。

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