四:決断の夜


 夜の帳がネオ・トヨスに降りると、冷たい風が廃ビルの隙間から吹き込んでいた。パイとデルタは身を寄せ合い、今後の計画を練りながら寒さに耐えていた。

「このままずっとここにいるわけにはいかんやろうな」パイが口を開き、声を少し低めた。「反AI組織に見つかってしまったら、うちらも終わりや。もっと安全な場所を見つけんと」

 デルタは頷きながらも、顔に不安の色が浮かんでいた。「でも……本当にそんな安全な場所なんてあるのでしょうか?」彼女の問いには一抹の望みと不安が交差していた。

 パイは一瞬目を閉じ、考え込むように黙った後、はっきりとした口調で言った。「安全かどうかなんてわからん。でも、うちは動かんと何も変わらんと思う。あんたを助けるって決めたんや」

 その言葉に、デルタは感謝の気持ちを感じたが、同時に自分がパイにとって負担ではないかという不安が心をよぎった。「……わたくし、ただの足手まといにはなりたくありませんの」

 パイは目を細めて小さく笑った。「足手まとい? そんなこと思ってへんで。うちはあんたに期待しとるんや、デルタ。会ったばかりやけど、あんたと一緒ならどんな困難でも越えられる気がするんよ」

 その言葉にデルタは胸が熱くなった。これまで一人で生きてきた彼女にとって、誰かが共に戦うと信じてくれることが、何よりも心強かった。小さく頷いたデルタは、その決意を噛み締めた。

「わかりましたわ、パイさん。わたくしも頑張ります。共に前に進みましょう」

 パイは満足そうに頷き、二人は静かに立ち上がった。


「ほな、夜のうちに少しでも先に進もうや。風が冷たいけど、少しでも遠くまで行くんや」

 デルタは深呼吸をし、パイの後ろに続いた。冷たい空気の中、彼女たちは共に新たな未来へ歩み出した。やがて、パイが何かを思い出したようにデルタに尋ねた。

「そういや、腹はもう大丈夫か?」

 デルタはふっと笑みを浮かべ、軽く首を傾げた。「ええ、さっきのお水で少し元気が出ましたわ。でも……もし何か食べ物があれば、もっと嬉しいですけれど」

 パイはニヤリと笑いながら肩をすくめた。「まともなもんはないけどな。今度見つけた『超高級グルメ缶詰』を振る舞ったるわ! 言うても、期限切れかけの缶詰やけどな」

 デルタは驚きつつも興味深げに首を傾げた。「超高級、ですの?」

「まあ、味は保証せんけど、賞味期限が切れかけとる分だけ……『味が熟成されてる』かもな!」パイが自信たっぷりに言い放つと、デルタは思わず吹き出しそうになったが、必死に笑いを堪えた。

「それは……ありがたくいただくことにしますわ」デルタが微笑んで言うと、パイは少し照れたように笑った。「ほら、食べ物があるだけ幸運やと思っとき! あんたにはうちの特別な食料庫を案内したる」

 デルタは微笑みながら、少し疑念を浮かべた表情で問いかけた。「ありがとうございますわ、パイさん。でも……その秘密の食料庫、本当に大丈夫なんですの?」

「うちが保障するわけないやろ!」パイは冗談めかしながらも自信満々で言った。その様子にデルタも安心し、二人で笑い合いながら先へと歩を進めた。ふと、遠くで銃声が響くが、二人は立ち止まることなく歩き続けた。冷たい風が頬を撫で、鋭く響く銃声が二人の背後で消えていく。

「パイさん……」デルタが小声で問いかけると、パイは前を見据えたまま頷いた。「怖がらんでええ。あんたはうちが守ったる」


 パイのその言葉にデルタの瞳にかすかな光が宿った。彼女たちは恐怖を乗り越え、共に決意を持って進んでいたのだ。

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