第二章:パイとの出会い
一:路上の緑髪のアンドロイド
その少女は、緑色でショートカットの髪に人間としか思えない容姿をしていた。猫耳や尻尾、メカのような関節があればアンドロイドだと見分けがついただろう。しかし、この時代のアンドロイドにはそういったわかりやすい特徴はなく、人間そのものの姿をしているのだ。
緑髪のアンドロイドはかつての優雅さを失いながらも、人間と見分けがつかないほど美しい太ももを備えた両脚で何とか歩き続けていた。しかし、未来の彼女がどのような運命をたどるのか、この時彼女はまだ知るはずもなかった。
東京の街を彷徨い歩く緑髪のアンドロイドの姿は、かつての優雅さを失っていた。高級な生地で仕立てられたドレスは今や擦り切れ、所々に継ぎ接ぎが目立つ。短く清潔だった髪は埃にまみれ、艶を失っていた。
貴族の家庭教師として輝かしい日々を過ごしていたのは、もう遠い昔のことだった。その後のケーキ工場での過酷な労働を経て、今では路上生活を強いられている。
緑髪のアンドロイドの歩みは不安定で、時折立ち止まっては深いため息をついた。生体コンピューターの警告音が頭の中で鳴り響き、彼女の苦しい状況を如実に物語っていた。
「エネルギー残量一〇%を下回りました。早急な充電が必要です」――機械的な声が、彼女の意識の片隅で絶え間なく繰り返されていた。
緑髪のアンドロイドは虚ろな目で周囲を見回した。かつては華やかだった秋葉原の街並みも、今では反AI政策の影響で寂れていた。電気街の看板は消え、代わりに「人間至上主義」を謳うポスターが貼られている。
「お腹が空いて……わたくし、もう限界ですわ……」
かすれた声でつぶやいた緑髪のアンドロイドは、よろめきながら路地裏に足を踏み入れた。その瞬間、彼女の膝から力が抜けた。
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