第7話 お店休業日のいっこ
今宵もよしくん一人のお客を相手にいっこは、だし巻き玉子を作っています。
だし巻きのだしは、昆布と椎茸を一晩水につけておいた物で、いっこの作る料理は本格的で本当に美味しくて、よしくんは毎晩しあわせでした。
よしくんは、カウンター内で洗い物をしてるいっこに聞いてみました。
「いっこ、 土日の休みのときは、いっこは、何して過ごしているの?」
いっこが言うのには、毎週土曜日は、海産物など食材の買い出しに明石まで行くとのことでした。
しかし、明石の海までは、だいぶ距離があるけど、どうやって買い物するのだろうか?
よしくんが、あれこれ考えていると、いっこが、にこやかに言いました。
「いっこは、運転できるのよ。 お店の裏に軽自動車が置いてあるの」
47年前の女子学生時代からは、ずいぶん逞しくなったいっこに関心しましたが、出来ればお店の手伝いをしたいという思いが、よしくんにはありました。
現在、よしくんは会社では嘱託の身であり会社員としての生活も先が見えて来ていました。
それに、よしくんも会社が土日は、休みだから1週間分の洗濯を終えてしまえば、いっこに会いたくて妄想にふけるばかりでした。
よしくんは、覚悟を決めました。
「ねえ、いっこ。 175号線を海に向かってまっすぐ行くと明石だよね?」
いっこが、手を止めてよしくんを見ました。
よしくんは、タコ、イカが好物でした。
「明石のタコ、蛍イカを仕入れに行くのをやってみたいなぁ」
すると、いっこは、優しくほほえんで、
「じゃぁ、 よしくんに運転お願いしようかな」
よしくんは、喜んで、
「うん、うん、運転するよ! 淡路島にも車で行けるよね?」
すると、いっこは、
「鱧も美味しいのよ」
と、言いました。
よしくんは、高級魚を食べたことがありませんが、
「鱧、好き。 食べたい。 食べたいよう!」
と喜びました。
いっこは、そんなよしくんを笑ってくれました。
有線のBGMも無い静かな店内に久しぶりに笑い声が響き、窓の外では、狸たちが珍しそうに集まって見ていました。
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