第4話 朝まで一緒に
相変わらずお客さんは、よしくん一人でした。
よしくんは、鍋焼きうどんを、おつまみにして日本酒を呑んでいます。
そして、いっこのお酌で盃を重ねると、ついつい夜ふけになってしまいます。
「いっこ、 そろそろ看板だね」
よしくんが、ぽつんと言います。
いっこは、近くの梨園の梨を、剥いていましたが、その手を止めて言いました。
「提灯と暖簾をおろして来るから、そのまま、呑んでいてね」
いっこは、お店の玄関の外に出て、片付けをします。
そして、いっこが、よしくんの隣のカウンター席に座ると、カウンター内に用意してあったノンアルコール梅酒を飲み始めました。
「いっこは、これで酔えるのよ」
そう言って、にこにこ微笑むいっこの頬は、薄っすらと赤く染まっています。
「いっこ、 酔うと一段と色っぽいね」
よしくんもだいぶ酔が回ってきました。
いっこは、甘えるように、よしくんの肩に頭を乗せてきます。
「いっこも、今夜は酔いたい気分なの…」
よしくんは、慌てて梨を口に運びます。
いっこは、続けて呟きます。
「寂しいよう。 今夜は、 特に…」
よしくんは、どきどきしながらも、いっこが一人でお店を続けることの大変さを感じました。
そして、よしくんは、前から疑問に思っていたことを、いっこに聞いてみようと思いました。
「いっこは、 いつから、 このお店を始めたの?」
すると、いっこの帯に挟んだスマホからオルゴール音が響いてきました。
「いけない、 よしくん、終電の時間よ」
よしくんもびっくりしました。
いっこのお店から緑ヶ丘駅までは、急ぎ足でも20分かかります。
慌ててよしくんは、席を立ち上がりました。
すると、いっこは、ぎゅうっと、よしくんを抱きしめて、
「次は、終電を気にしないで泊まっていってね…」
と呟きました。
その夜、よしくんは、いっこの気持ちを知りました。
47年前から二人とも変わっていないけれど、いっこは、女子大生から今は小料理屋の女将さんになり、大人の女になっていました。
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