第2話 小料理屋
電話で教えてもらった通りに緑ヶ丘駅から雌岡山の方へ細い道を歩いていくと、およそ家も何も無い雌岡山の麓の木々の間から、ぼうっと浮かび上がる提灯が見えました。
近づくにつれ提灯に書いてある文字が読み取れました。
「小料理 いっこ」
車や人通りも無い道の傍らに慎ましやかにひっそりと佇むお店がありました。
よしくんは、どきどきしながら暖簾をくぐりました。
こぢんまりとした店内は、カウンター席が3つ程しかありません。
温かい雰囲気のカウンタ内には、47年前のいっこがほほえんでいます。
「いらっしゃいませ、よしくん、、、」
他にお客さんが居なかったので、よしくんと呼んでくれました。
「こんばんは、いっこ。 やっと会えたね」
しばらく、二人は見つめ合いました。
いっこからおしぼりを渡されて手を拭きお品書きを見上げます。
それを見て、いっこが言いました。
「このお店、滅多にお客さん来ないの。 だから、今夜は、よしくんのために仕込んでおいた土瓶蒸しをどうぞ」
いっこは、品の良い薄化粧で着物の袖を上げて、つき出しのお漬物を切って出してくれました。
よしくんは、盃に注いでくれる人肌の日本酒を飲みます。
「いっこも どう?」
そう言って盃を差し出すと、
「いっこは、お酒駄目なの。 面白いでしょ? こんな商売しているのにね」
よしくんは、いっこがお酒飲めないことを始めて知りました。
お客さんからの返盃とかおごりでお酒の相手をするものだと思っていたよしくんは、意外に思いました。
よしくんは、嬉しそうに温かい土瓶蒸しを食べます。
まだ、松茸には早いので椎茸が入っていて、鶏肉も入っていて、お腹も心も満たされました。
知らない内に夜もふけて来ました。
「いっこ、そろそろ看板? 今日は、これで帰るよ。 明日もやってるよね?」
「土日は、お休みだけど毎日開けているの」
よしくんは、おあいそしてもらい帰りました。
その日から毎晩「小料理 いっこ」に通うことになったのは言うまでもありません。
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