第三話 馮 程の長安通信、其の四。
【誰だっけ? をなくす! 名前ガイド】
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・緑の布を髪に飾った女=
* * *
やあ、みんな!
オレは遣唐使の
唐名、
最近、遣唐使の高官たちが、機嫌が良い。
そもそも、この遣唐使の一行は、前の遣唐大使の藤原清河さまを迎える、という勅命をいただいていた。
残念ながら、遣唐使が長安についたら、藤原清河さまは鬼籍にはいってしまっていた。そのお嬢様を日本に連れ帰る、その説得の場で、大伴遣唐判官殿がまずい事を言って、お嬢さまの機嫌を損ねていたらしい。
それが解決したんだ。
良かったよ!
大伴遣唐判官殿が、自分のせいだっていうのに、お嬢さまの
ふう。
大伴遣唐判官殿は、イライラ状態から、普段の陰険さに戻った。眉間にある古い刀傷も、シワがよらないで、眉間が広々してるってもんさ。
もう、あの人にも困ったもんだよね。変態さんだし。
ただ、気になるのは、
ずっと塞ぎ込んでるんだ。
何か考え事をして、ため息をついたり、庭で遠くの空を見ていたり。
「にゃはは〜、恋かな。」
「そのようです。」
と会話をしていた。オレは、
なんでも、ちょっとした茶目っ気でお兄さんのフリをしていたらしい。唐の女性の考えることは神秘に満ちている。
オレ、一回、
はあ、とため息をつくと、あたりの空気が桃色に染められるようだ。
それを
あの人、目線がいやらしいんだよね……。困ったもんだよ。
さて、オレは今、長安の
書肆の表から。
「じゃあ、良いのが買えたら、あたくしにも読ませてね。」
「はい。どのような書物が読みたいですか?」
「それはね、ぐふふ、ここでは言えないようなヤツよ。」
「ああ、華岳夫人……。」
「
と、女性二人の声がして、表から去ってゆく足音と、書肆に入ってくる足音に別れた。
書肆に一人で入ってきた十五歳くらいの若い女は、髪の毛に緑色の布を飾っていて、さっぱりした顔立ちだ。
(あ、あの女性、前にも……。)
「これをください。」
書肆の店番の男は、若い女から代金を受け取りつつ、とびきりの笑顔をむけた。この男は、十八歳くらいか。
「今日も来たね、可愛い娘さん。この前の書物はどうだった? 面白かった? 良かったら、お茶をしながら教えてほしいな。」
(ほーら、やっぱり! 今日も声をかけたぞ! どうなる?)
「
十五歳くらいの若い女は、笑わず、それだけ言って、ふわり、と緑色の飾り布をゆらめかせながら、書肆を出ていった。
「あ〜あ……。」
店番の男は、残念そうに頭をぽりぽりかいた。
書肆に居合わせたお客の皆は、なまあったかい目でふられた男を見る。
(今日は、無言じゃなくて、一言もらえたじゃないか。進歩してるぞ! 長安の
オレは心のなかで応援をおくり、書物選びに没頭しはじめる。
しばらくしてから、表が騒がしくなったのを感じた。表に出てみると、向かいの
「話をしにきたっていうのに、あたしを追い出すっていうのね?
帰らないわよ!」
十七歳くらいの女が大声でわめいているのが見えた。目つきのきつい美女だ。ひとりのお供の男───頰のはった顔立ちの男を連れている。
女は、それなりの暮らしぶりをしていると見てとれる。
化粧が濃く、良い衣で着飾っていて、髪の毛もぐるっと丸く派手に結い上げていた。
「そっちがその気なら、あたしはここで、いくらでも叫んでやる! この
皆、ざわざわしながら、
「
「たしか離婚したんじゃなかったっけ?」
「あの女、妾か? いじめられてるのか?」
と遠慮ない事を言う。
「やめろ
左頬に刀傷のある男が、真っ青になり、わめく女の腕をとらえる。
「離してよ、お兄ちゃん! それとも
「
と言った。
(お付きの家奴も、
オレは外宅にむけて走りだした。
途中、
「
「はい、お嬢様。」
と会話する、美人のお嬢さんと、そのお供の美少年を追い越した。
(ん? 今、
走れ!
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