第八話 白 霞、應 俰と出会いたる事。
「ようこそ。ワシが
大川は、客室に入ってきて
男にしては声が高く、澄んだ綺麗な声だった。
(
唐に入り、
声が高く、皆、不思議な雰囲気を発していた。
ここの茶肆の女主人は、
背は低めだが、整った顔立ちもあいまって、かなりの色気を感じる。
首が細い。
(女……?)
いや、それはない。茶肆の主人は、
「ワシの息子を紹介します。」
とハッキリ言っていた。
しかし、宦官とは、
(
恐ろしい罰である。しかし、そんな重罪人の顔に、目の前の人は見えない。善良そうな顔をしている。
(いや、あれこれ考えるのはよそう。失礼だ。)
大川は、瞬時に動揺から立ち直り、にこり、と笑ってみせた。
「乱暴者を見過ごせなかっただけです。当然のことです。こちらこそ、話し相手になって欲しい、などと、あつかましいお願いをきいてくださり、ありがとうございます。」
そして、後ろのお供の男を見た。
白 健は、肌の白さ、目の青さ、たちのぼる
雰囲気が暗い。
鋭い目。左頬に刀傷。背丈は三虎くらい。
鍛えられた身体。流れるような身のこなし。顔にはなんの表情も浮かんでいないが、隙がない。
(強いな……。)
帯刀していないのが不思議なくらい、武人としての雰囲気を発している。
後ろの背の高い男は、陰の気だ。
二人はそれぞれ、
(面白い組み合わせだな。)
* * *
(ばれるかしら?)
「ワシが
と名乗った。結果、目の前の男は、何も疑問をさしはさまなかった。
(騙せたわ!)
もし、ここで、
「あなたはご婦人のようですが?」
と言われたら、素直に、
「ほほ、ちょっとした茶目っ気ですわ。唐では、女が男装するのが当たり前ですの。本日はあたしを話し相手としてくださいな。男でないと困る、というのでしたら、また、次には、兄をよこしましょう。」
と言おうと思っていた。多分、それで大事には至らないだろう。
(今、あたし、男だと思われてる! たーのし───!
どうしてばれないのだろう?
三十歳をすぎると、女は、女というより、
そして、
それにしても、目の前の男、
背が高く、切れ長の涼やかな目、男にしておくにはもったいないほどのきめ細やかな白い肌。(あたしのほうが白いけど)
整った鼻梁。
微笑むと、星光が散るような、華やかな美男だ。
(若い頃の
三十歳の
年齢ははっきりしないが、年下であることは明らかだ。
若い美男の前におかれた、しおれた
しかし、思い直し、顔を上にあげる。
(今のあたしは、
会ってすぐ、目を伏せるのは、おかしい。兄ならしない。)
男らしく堂々と顔をあげ、目の前の美男の顔を見る。
(ふぉ〜、どこからどう見ても美形だわ。不思議な顔立ち。ちょっと
「そちらのお方は? お名前を教えていただけませんか?」
「
表情を動かさない
「まず、お尋ねしたい。私の唐語の発音はおかしくありませんか?」
「はい。おかしくありません。」
「良かった。
私は、日本から、遣唐使として来ました。」
「日本……。」
「ええ、
ぜひ、唐の現地の方と、親しく話をしたかったのです。
どうか仲良くなって、私にいろいろ教えてください。」
「わかりました。」
「
「
敬称は、普通の間柄では使わない。
ただ、下の名前で呼ぶこともしない。
下の名前で呼ぶのは、家族、もしくは、主が
「ワシも
「……ここの
深い、青い色……。カワセミの羽のように鮮やかだ。
唐では、多いのですか?」
「唐では、さまざまな国の人が行きかいますから。目の色、髪の色もさまざま。ワシのような
母、
そうでなくば、母は
自慢のように聞こえないで、この事を伝えるには、どういう言葉を選ぼうか、
「先日、酒肆で、同じような目の色の淑女を見ました。」
どき───っ!
(あっ、この男、先日、酒肆で泣き顔を見られた男じゃない!)
ちらっとしか見なかったけど、すごい美男だったから、間違いない。
(なんてこと。女ってばれる?!)
「いや、けっこういますね。これくらいの目の色の人は。ははは。」
「……そうですか。」
(危なかった───!
大丈夫。女とばれてない。)
(このドキドキ、クセになるわ!)
にまっ、と笑ってしまったのだった。
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093091078992290
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