第二話 白 霞、李 盛と離婚する事。
義父は不在で、義母、
「うわぁぁぁ……。お義母さま。もう無理です。
義母は戸惑った。
「夫が、あろうことか、あたしの
いつも
「離婚するとは……。本気なの?」
と、霞に言った。
霞は小さくなって震え、こくり、と頷いた。
(もう、夫を欠片も愛せない。心から離婚したい。)
「あたしは、
離婚させてください。」
義母はしばらく黙って、霞の顔を見ていたが、ぽつりと、
「我が息子ながら、商売人の顔をこんなになるまで殴るなんてね。
それじゃ、何日も
そんな事も考えずに、あの子はあなたを殴ったのね。」
「ええ、おまえは子供をもうけられない嫁に該当するわね。
あれこれ至らない嫁だけど、おまえは
それまではあたしの屋敷にいなさい。」
「ありがとうございます!!」
離婚を許す、手続きが終わるまでは、夫のいる屋敷ではなく、義父母の屋敷に寝泊まりして良い、と言ったのだ。
霞は
離婚手続きの書類が整うまで、義父母の屋敷を出ず、夫と会わなかった。
* * *
『ついに子はできなかった。
愛に満ちた二人の住まいは、いつの間にか
二人は憎みあうようになり、和解をする事もない。
ここに六人の親族が立ち会い、これを認める───。』
義父母の屋敷の一室。
霞の見つめる先で、離婚の書類に、六人の親族が名前を記し終わった。
バン! 扉が荒々しく開き、
「認めない、認めないぞ! 勝手に離婚の書類を作りやがって!
でも書類は有効だ。
七出には不孝がある。姑が離婚を申し立てる事も、認められているのだ。
破り捨てる気だ。
義母が今までで一番大きな声をだした。
「
反論は許さぬ、という威厳で李 盛を見た。
「息子を取り押さえて、つまみ出しなさい!」
やれやれ、という顔で、親族の男たちが義母に従う。
大勢の男に取り押さえられても、
「お母様、考え直してください!
霞はオレがいないと駄目なんです。何もできない女なんだ。
離婚なんて認めない。
お母様っ! 霞! 霞───っ!」
李 盛は暴れ続け、叫ぶことをやめず、男たちに引きずられるように部屋から連れ出された。
やっと静かになり、義母は、ふーっ、と深いため息をついた。
そして
もう、義理の娘を見るのではなく、他人を見る目だ。
「
もう会うこともないでしょう。
───さようなら。」
「はい。ありがとうございました。さようなら……。」
(終わった。これで終わったんだ……。あたしは、もう李家の人間じゃない。盛の妻じゃない。もう、盛は関わりない者。殴られる事も、苦しめられる事もない。)
霞は天をあおいだ。
肩からすーっと力が抜けてゆき、心が軽くなり、呼吸が楽になった気がした。
* * *
(※注一)……
旧中国で夫が妻を離婚させられる七つの事由。
(1)無子(男がないこと。女は子の数に入らぬ。)
(2)姦淫。
(3)
(4)口舌多言。(人の悪口を言う。)
(5)盗窃。
(6)嫉妬。
(7)悪疾。(悪い病気にかかった。)
ただし、舅姑の喪を守った妻、
【離婚について補足】
離婚は当時、珍しくありませんでした。
離婚したら、男も女も、再婚するのが普通でした。
姑が、嫁が気に入らない、と、離婚を申し立てる事もあったとか。
(ただし、夫のサイン不要、親族6人のサイン要は、架空)
一方、妻が浮気するのも、割と普通でした。(ここでは金持ちの妻について語る)
それでも離婚されないの〜?!
ケースバイケースだったんじゃないかな。
夫は、仕入れで長期不在が当たり前、そして、妾もいるし、妓楼遊びが風流とされた時代だし、妾にしない
妻は夜が寂しかったはずです。
「あなたぁ〜!(怒)」
と、妻に嫉妬されるより、跡継ぎ男さえ産めば、妻は妻で、
「見て見ないフリをしてるほうが、夫婦円満だよ。」
と夫はぼやいていたかもしれません。
七出は、
しかし、我らが霞は、潔癖ぎみな母親に
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093090521711405
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