第12話:追い詰められるおねーちゃん
ここはとある場所。シロは生活の拠点を移していた。シロは1件目の被害者秋山智也の娘、秋山白香。片親であったシロは親戚もいないため一人では生活できなくなっていたのだ。しっかりしていても、彼女はまだ小学生。独立するには早すぎた。
「おねーちゃん。私、ここで頑張るね!」
「うん、おねーちゃんも頑張ってるし、シロならきっと大丈夫!」
おねーちゃんはシロを励ます。
「俺もいるから!」
アオも生活の拠点を移した。これまでも何度か計画したが、そこまでは踏み切れないでいた。親から離れるということは親を捨てることになる。暴力を振るう父親のことは大嫌いだったが、母親のことは好きだったから。母親は自分を守ってくれないけれど、自分が母親を守っていかなければと考えていた。
しかし、惚れているシロが引っ越すというのならば、自分もついていきたいと考えたのだ。しかも、そこには「おねーちゃん」もいる。シロは昔から一緒で妹のように思っていた。昔から身体が弱かったこともあって、自分が守らなければならないと考えていたのだ。容姿も好みなので、将来は結婚したいとすら思っていた。
一方、「おねーちゃん」はずっと大人だ。自分のことをかわいがってくれる。容姿がすごく整っているし、やさしいし、頭が良くて勉強も教えてくれる。ご飯だって上手で美味しいご飯を作ってくれる。他の子にも大人気だ。「おねーちゃん」なら結婚してやってもいいとも思っていた。シロとおねーちゃん、将来はどちらと結婚しようかアオは悩んでいた。
「シロ、なんかドキドキして苦しい」
新しい生活が始まってすぐそんなことを言った。アオは思った。これは恋だと。自分のことが好きなのだと。そして、自分が「おねーちゃん」のことも気になっているのでやきもちを妬いてドキドキしてしまっている。それはいけない。大事なシロが不安になっている。
「シロ、俺はシロを選ぶから! 大丈夫だから!」
「……うん……?」
座っていたシロは胸をおさえてゆっくりと前かがみに倒れていった。呼吸がおかしく、冷たい汗をかいていた。そして、そのまま気を失ってしまった。
「シロ……? シロ! おねーちゃん! シロが!」
「シロ! 大丈夫!?」
シロはそのまま入院することになった。
幸い「先生」の病院が近くてすぐに入院することができた。シロは色々な検査を受けていた。
病院の一室で「先生」と「おねーちゃん」とアオの3人だけ。「先生」の口から衝撃の言葉が出た。
「検査の結果、シロから心疾患が見つかった」
「そんな……」
「おねーちゃん、どういうこと!?」
アオは不安そうに「先生」と「おねーちゃん」の顔を交互に見る。
「シロの心臓に病気が見つかったんだ」
アオに向けて「先生」が言い直した。
「先生なら治せるんでしょ? 先生は先生なんでしょ!?」
なにがどうなるのかアオに詳細は分かっていない。漠然とした不安が周囲の大人を頼らざるを得なかった。
「僕は外科医だけど、心臓は特別なんだよ。専門じゃないんだ」
「分からない……先生がいいんだ。先生なんとかしてよ!」
こどもに大人の事情は分からない。彼にできることは駄々をこねて大人を困らせることくらいだった。
「アオ、先生を困らせたら……」
「いいんだよ。子どもが駄々をこねるってことは甘えてるってことだから……。アオには甘えられる相手が必要だ」
「はい……」
迷惑をかけないようにと「おねーちゃん」は止めようと思ったけれど、「先生」の心は広かったようだ。
「入院のことは心配しなくていいんだけど、手術には移植が必要になる。海外への渡航費用と入院費、手術費なんかでだいぶ費用がかかりそうなんだ……」
彼の元気がない理由はこれだった。この時はまだ分かっていなかったが、海外で手術を受ける場合は手術費用は全額自己負担となる。その上、移植が必要となれば入院したままでの待機期間が発生する。ドナーから臓器を摘出して、心臓の虚血許容時間(血流再開までに許される時間)は4時間と言われている。ドナーが見つかってから海外に移動していては間に合わないのだ。さらに、いつドナーが現れるかは誰にも分からない。その費用は青天井、ノーリミットなのだ。
「なんとかできないか……」
「先生、私に考えが……」
いよいよ「おねーちゃん」は後に引けなくなってしまった。
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