第48話 三世の扉

 大魔王使いの塔をエレベーターなしで上がるなんて、一番最初にブレイブアンドレアをプレイして以来だ。


 塔自体の構成は複雑ではなく、特になんのギミックもない一直線だった気がするんだけど……。


「なんだ、これ?」


 三つの扉が現れる。


 こんな扉なんてあったかな?


「これは三世さんぜの扉……」


「三世の扉?」


 ヴァシュロンが驚きながら呟くので、そのままおうむ返しで首を傾げてしまう。


「ああ。この扉の向こうには、過去、現在、未来へ通じる道が広がっている。この扉に入れるのは一人一つ。賢者の試験に使われる扉だ」


「だったら俺達はここで待機ってことか?」


「しかし、俺達がエルメスと共に行くには扉を潜るしかねぇぜ。王子」


 言いながらヴァシュロンが適当な扉を開けた。


「俺達は仲間だ。エルメスを待つだけじゃなくて一緒に試験を受けてやる」


 そう言いながらヴァシュロンは行ってしまった。


「熱いこと言いながら一番最初に扉を選ぶ辺りに配慮のなさを感じるな」


「ぷくく」


 エルメスは嬉しそうに笑っていた。


「でも、ああやって言ってくれるのは嬉しいですよ」


「エルメスが良いなら、良いんだけどな」


「王子様。先に選んでください」


「良いのか?」


「はい。残り物には福があると言うでしょ? 私の試験なんだし、わがまま言わせてください」


「珍しいな。エルメスがわがままを言うなんて。わかった。じゃ、俺が先に選ばせてもらう」


 言いながら直感的に選んだ扉を開けた。


「エルメス。一人で辛くなったら逃げて良いんだぞ。逃げることは決して恥じゃない。なに、賢者なんかになれなくても、エルメスは俺の仲間だ」


「王子様も、ね」


「言うようになったもんだ」


 好感度が上がっているから、こんなエルメスとの冗談のやり取りもできるってもんだな。



 三世の扉の先は下り階段になっていた。


 周りにはなにもなく、壁もない。ただ暗闇を下に向かって下って行く。


 コツコツと自分だけの足音だけが闇の中に響く。


 そんなことを思いながら歩いていると、ふと、目の前の光景が変わる。


「ぜぇ……はぁ……」


 目の前には傷だらけの自分が立っていた。


 いや、自分だけじゃない。


 カルティエ、エルメス、ヴァシュロン。いつもパーティに加えていた仲間が傷だらけでかろうじて立っていた。


 彼等の目の前には禍々しい姿をした第二形態の魔王オメガ。その姿はかつて人間だった時の面影はもうない。


「ひゅー……ひゅー……」


 魔王も虫の息だ。


「ご主人様」


 カルティエが俺の手を握ってくれる。


 幼い頃からずっと側にいてくれる。どんな時も側にいてくれる。それは例外なくだ。こんな魔王との戦いの時にだって側にいてくれる。


「ルティ。俺は生まれてからずっとお前と一緒にいられて幸せ者だ。これからもずっと一緒にいよう」


「この身が果てるまで、私はご主人様と共にいます。なにがあろうとも」


 ギュッと握った手に力を入れると、体の底から力が湧いてくる。


「この辛い戦いを共に終わらせよう」


「かしこまりました。ご主人様」


 カルティエと手を握ったまま、共に剣を振り下ろす。


 自分とカルティエの力の入った勇者の剣は禍々しい魔王を簡単に一刀両断した。


 はずだった。


「がああああ!」


 半分になったはずの魔王の最後の攻撃がカルティエを襲う。


「ルティ!!」


 一瞬の出来事だった。


 ここまでずっと五体満足で生きてきたというのに、最後の最後ので自分の上半身と下半身は真っ二つになってしまった。


「ご主人様!!」


 かろうじて聞こえてくるカルティエの声に安心する。


「ああ……ルティ……無事、だったんだな」


 不思議と痛みはない。ただ、自分は死ぬのだろうというのは感じ取れた。


「ご主人様! ご主人様っ!! ヴァシュロン様!! 回復魔法を!! 回復魔法を早く!!!」


「ルティ。回復魔法なんかじゃ、俺は、助からない……」


「そんな……そんなことないっ!! ヴァシュロン様っ!! 早く!!」


「ルティ、が、わがままを言うなんて、初めて、かな……嬉しいよ」


「ご主人様っ!! ご主人様!!」


「……俺は……生まれた時から、お前が側にいてくれて……本当に幸せだったよ……今までずっと側にいてくれてありがとう……」


 最後の力を振り絞り、カルティエの唇にキスをした。


「生涯、ルティだけを愛してきた……お前を好きになれて良かった……来世では……永遠に共に……」


「ご主人様……ご主人様あああああ!!」


 泣き叫ぶカルティエの声を最後に、目の前の光景は真っ暗になった。


「……これが未来の光景ってか。フィリップに転生して、色々と試しても俺の未来は変わらないってことかよ」


「これは過去の出来事ですじゃよ。王子」


 聴き覚えのある声がしたかと思うと、見覚えのある顔が現れた。


「校長、先生」


 闇から現れたのはケープコッド魔法学園の校長オード・トワレであった。

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