第46話 見た目詐欺のやつが賢者になれるって言うのリアルだったらめっちゃ怪しい

 セーコの話によると、この世界にはエルフの里ってのが存在するらしい。


 ブレイブアンドレアにはエルフの里なんて存在しなかった。これまたボツデータかなんかだとは思われる。ま、王道RPGだからエルフの里だなんて用意していてもなんらおかしくはない。


 エルフの里に住んでいるエルフの女王が、『水のオーブ』というのを所持しているらしい。それを使えば海の底に行けるそうだ。


 しかし、エルフの里にはどうやって行くのかは謎に包まれているそうな。


 つまり、ふりだしに戻る。というか選択肢が増えただけだ。


 船を入手して、人魚のユリスを仲間にするか。


 エルフの里を見つけて水のオーブをもらうか。


 どちらにせよ、面倒なことには変わりない。



 わああああああ──!!


 本日も闘技場は大歓声に包まれている。


 ラスボス先生の居場所に大体の目星がついたところで、レベルの確認にやって来た。


 これからラスボスと戦闘になるかもしれない。ポセイドンと戦闘になるかもしれない。そうなる前に今一度自分自身のレベルの確認だ。


 挑戦しているのは物語の終盤の前期程度。


『さあ! 脳筋に脳筋を重ね、脅威の三連斬を披露する脳筋王子がぽんぽんっと簡単に決勝戦までやって来ました』


 もうこの実況にもすっかりと慣れてしまった。なにを言われようがどうも思わない。


 実況の言う通り、終盤の前期程度のレベルを相手にポンポンと勝ち進んでいる。


『決勝戦の相手はこいつだああああああ!!』


 このレベルの決勝戦の相手なら、おそらくはザーコックかメッチ・ザ・コダの二択だな。ザーコックは武道家。メッチは魔法使い。


 プシュゥゥと演出の煙が舞い上がり、身体の大きなシルエットが映し出される。この演出はザーコックだな。


「な、何者だっ!? ぐはっ!!」


 突如、ザーコックの声が聞こえて来たかと思うと、演出の煙をかき分けて吹っ飛んでいき、ドゴンッ! と壁にザーコックがめり込んでしまう。


 そのままザーコックは戦闘不能となった。


『ら、乱入者だああああああ!!』


 実況の声が響きわたる。


 演出の煙にはザーコックよりも大きな身体の持ち主だ。


 まさか……。


「こんなザコじゃ話にならんだろ。俺が相手をしてやるよ。勇者んところの王子さんよぉ」


 煙が晴れると、コキコキと首を鳴らして現れたのは二メートルはあるだろう巨大な男。


「ヴァシュロン……」


 ヴァシュロン・コンスタン。ブレイブアンドレアの男性仲間キャラ。


『乱入者はヴァシュロンだああああ! その巨大から繰り出される一撃は、武道家のザーコックをも凌駕する強力な拳ぃ! さぁ、どうなる決勝戦!』


「さっさとやろうぜ」


 指をクイクイっとして血の気の多い言葉を放ってくる。


『決勝戦! フィリップ・バズテックVSヴァシュロン・コンスタン。試合開始!!』


 ゴングの音と同時にヴァシュロンは拳を合わせる。


「はあああああああ!」


 気合いの言葉と共に叫ぶ。


『ヒール!』


 ヴァシュロンのHPが回復した。しかし、HPは満タンだ。


「うおおおおおおお!」


『メガヒール!!』


 ヴシュロンのHPが回復した。しかし、HPは満タンだ。


「ぬおおおおおおお!」


『ギガヒール!!!』


ヴシュロンのHPが回復した。しかし、HPは満タンだ。


『ぐごおおおおおおお!』


『テラヒール』


ヴシュロンのHPが回復した。しかし、HPは満タンだ。


「なにしとんねん」


 フィリップのツッコミ。


「うぉ──ぅぉ──ぅぉ……!」


 改心の一撃。ヴァシュロンはエコーを効かせたダメージ音を出しながらその場に倒れた。


 あ、うん。ヴァシュロンってヒーラーなんよね。この形で。HPと防御は低いから、真性のヒーラーって感じ。この形で。


 AIの頭は良くなく、やたらめったらヒールを連発する。そこはその形のままにおバカさんなのね。


『一撃だあああ! 圧勝!! 勝者はフィリップ・バズテック!!』


 わああああああ──!



「お疲れ様です、王子様。とってもかっこよかったです」


 闘技場の待合室に行くと、エルメスが出迎えてくれる。


 エルメスの好感度も随分と戻って来たのもあり、出迎えのセリフが普通よりちょっと高めの出迎えセリフなっている。


「負けたぜ、王子。あんた、つえーよ」


 俺達のやり取りに入って来たのは、先程ツッコミでKOしてやったヴァシュロンだ。


「またやろーぜ。次は負けねぇよ」


 よくもまぁあんな無様な醜態をさらしてそんな口が叩けるものだ。


「んんん!?」


 過去のことは気にしないタイプのヴァシュロンは、エルメスのことをジッと見つめる。


 あー、そういえばヴァシュロンってエルメスに惚れてたんだっけか。似ている職業だから、惹かれるもんがあんだろうね。


「や、やや、な、なんですか……?」


 不審者に見つめられて嫌悪感を出すエルメスのことなどお構いなしにヴァシュロンが言ってのける。


「あんた、賢者になれるぜ」


「え……?」


 唖然とした声を出すエルメス。そりゃ突然変な大男が賢者になれるとか言出だしたら正気を疑うよな。


 しかしエルメスの賢者フラグは確か、エルメスの好感度が高い状態で、古代都市エルオシデーモナンに行くとモブ賢者が、「あなたは賢者の才能がある」って教えてくれたはず。


 なるほど、ヴァシュロンでもフラグは立つのか。


「この麗しの美女は王子の仲間かい?」


「仲間というかクラスメイトというか」


「一緒じゃねぇか。どうだい。あんたのお仲間を賢者にしてみないかい?」


 これからラスボス先生のところに行く際、何が起こるかわからない。


 賢者エルメスがいてくれると非常に心強いのは確かだ。


 海の底に行く方法も大事だが、戦闘準備も同じくらい大事だ。


 ここはヴァシュロンの誘いに乗るとしよう。


「エルメス。きみ自身はどう思う?」


「わたしは……」


 ギュッと拳を握りしめた。


「わたしは今までずっと、落ちこぼれと罵られてきました。だから、その、賢者になれるなら、なりたい、です」


「わかった。きみが賢者になるのを微力ながら手助けするよ」


「王子様……ありがとう、ございます」


「決まりだな。もちろん、俺も付いて行くぜ、王子、エルメス」


 半ば強制的にヴァシュロンも仲間に加わり俺達はエルメスを賢者にすべく、闘技場を後にした。

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