第31話 自分の運命を変えるのも大事だけど他人の運命を変えてあげるのも大事
シャネルは戦意喪失で棄権。よって闘技場優勝は俺で幕を閉じた。
優勝賞品は回復薬セットということで、大量の回復薬を貰ったんだけど、優勝賞品よりも戦闘のドロップアイテムの方がレアだった。なんてことは闘技場あるあるなのかもしれないな。
それよりなによりも、闘技場で色々とわかったことがある。
わかったことその一
ヒロインの好感度がMAXでも好感度を上げれば、かなり少量だが経験値が入ること。
推しとイチャイチャすればするほど経験値が入るのは嬉しいが、これは今後禁止することにしよう。
わかったことその二
ヒロインの好感度を下げ過ぎると面倒なイベントになること。
エルメスとシャネルの好感度が低すぎるイベントが異常に面倒くさい。今のところ出てきているヒロインは3人だったからまだマシだったが、まだまだヒロインは他にもいる。ブレイブアンドレアのヒロイン達からの面倒なイベントが発生したら、エンディングになる前に死んでしまうだろう。
わかったことその三
下がった好感度を再度上げても経験値にはならない。
これは本編と同じだな。エルメスとシャネルの好感度を上げたが、レベルアップした感じはしない。そうなると、元の好感度以上の好感度を上げたらできるのだと思う。
わかったことその四
レベルを上げるなら、やはり浮気ルートか。これは胸が痛むが、浮気ルートギリギリを狙わないとレベルが伸びないかもしれない。カルティエと恋人になれば簡単にレベルは上がるだろうが、まだまだ魔法学園編をわかっていない段階で結婚は早すぎる。ここは我慢だろう。
わかったことその五
魔物を狩っても、じぇんじぇんレベルが上がりません、はい。
実は現在、ケープコッド公国の近くの森の中でレベル上げをしているんだけど、さ。さっきから何時間、何十体と魔物を狩っているけどまじでレベルが上がった感じがしない。浮気ルートを回避する意味でも魔物を狩れば良いと思ったけど、だねだねこりゃ。やはり好感度。浮気ルートギリギリを狙ってのレベリングしかないのかもしれないな。
「貯まるのは金だけってね」
黄金の剣を見ながらため息が出てしまう。もうね、黄金の剣で魔物を狩りまくったから金がものすごいことになってしまっているよ。彼女が出来たらマンションをプレゼントしてもお釣りが来るレベルで貯金が貯まっているよ。
しかしだね。欲しいのは金ではなくて経験値。こういうのって欲しい時に欲しいものが手に入らないからもどかしいよね。
「魔王みたいな勇者がいる」
「うお!?」
ふと後ろから雪のように冷たい声をかけられて、ひどく驚いた声が出てしまった。
振り返ると、水色のショートカットに水色の甲冑を着た、ルカが立っていた。
「さっきから暴れ狂っているけど、ストレス発散?」
「いやいや、どこの暴軍だよ」
「だったら修行?」
「まぁそんなとこだ。ルカはどうしてこんな森の奥にいるんだ?」
「ワタシも同じ」
言いながらルカの固有武器であるツバメの剣を構え、ブンブンとその場で素振りを開始した。
「本当に魔法学園の生徒かよ」
つい口にしてしまうほどにおそろしく速い剣。俺も余裕で見逃しちゃうね。
「剣を磨いてもやはり意味はない」
「そんだけ速い剣を披露してなにを言っているんだか」
「王子のところのメイドに負けた。しかも二対一で」
ああ、そういえばダンジョン実習で、カルティエ対クーデレさん、ツンデレさんで戦っていたねぇ。
「カルティエは別格だから仕方ない」
「別に剣にプライドなんてない。誰に負けてもなんとも思わない。ワタシは魔法学園の生徒。魔法で成果を出さないといけない」
世界一速い剣の持ち主が剣にプライドがないなんて少し違和感だな。
「ルカはどうして魔法学園に入ったんだ?」
質問を投げると、ツバメの剣に映る自分を見つめながら彼女は答えてくれる。
「ワタシは孤児だった。孤児院はお金がなかったから毎日お腹を空かしていた。でも、あたたかい場所だった。孤児院へお礼がしたかった。お礼をするのはなんなのか、やっぱりお金、出資。そのためにはお金持ちになる。お金持ちにはには有名になる。有名になるには剣を磨く。だから毎日剣を振っていた。そんな時……そんな、時──」
なるほど。本編であればここで魔王に絆されて四天王って感じなのだろう。
「ワタシのところにケープコッド魔法学園の入学手続きがやって来た。魔法をほとんど使えないワタシがどうして選ばれたのかはわからない。だけど、有名な魔法使いになればお金持ちになれるかもしれないと思った。だから、ここに来たけど……ワタシは剣しか振っていない。これじゃあ有名に、お金持ちになれない、だから──」
ルカは、『アイスニードル』の魔法を唱えた。氷のトゲが木にぶつかると冷気を上げて消えていく。それは俺が言うのもなんだが、かなり弱い魔法であった。
「これじゃあ、魔法で有名になれない。だから魔法の修行をしないといけない。剣ばかり振っていたのは無意味になるけど、仕方ない。お金のため」
彼女は自分のことを話したあと、切り替えるようにこちらに質問を投げて来る。
「王子はどうして魔法学園に?」
「俺は、自分の運命を変えるためかな」
「運命を、変える?」
どういう意味だろうかと言わんばかりの疑問の声を投げられたが、それには答えずに違う回答をしてやる。
「でもまずは、俺じゃなく、ルカの運命を変えるとするさ」
俺は持っていた黄金の剣を彼女へ投げ渡した。
「これは?」
「黄金の剣だ。振れば金が出て来る優れもの」
説明してやると、一振り、チャリンと金が出て来る。
「これは……!? しかし、こんな高価なものを貰うわけには……」
「俺は王族だ。金に困ってなんかない。それはお前にやる」
わざとらしく嫌味っぽく言ってやると、こちらの意図が通じたみたいで、ルカは黄金の剣を受け取ってくれた。
「フィリップ王子」
俺を呼ぶと、ルカが持っていたツバメの剣を投げ渡してくる。
「ワタシには必要なくなったから貰って欲しい」
「待て待て。これを受け取ったらお前のアイデンティティが……」
これはルカの固有武器だ。それをおいそれと貰うのって大丈夫なのか?
「ワタシは王子の剣を大事にする。だから王子はワタシの剣を大事にして欲しい。だめ?」
「……わかった。大事に使わせ貰う」
そう言って俺はツバメの剣をその場で試し斬りしてみせた。
「かるっ」
羽のように軽いが、ちゃんと剣を持っている感触が手に伝わってくる。
ガシャン!
試し斬りをすると、なにかが壊れる音が聞こえた。
「王子の剣。凄い」
そう言いながら全裸のルカが拍手をしてくれる。
……って全裸?
「なんで裸!?」
ルカの体は細く、小さなふたつの山がピンと立っている。股間の方は守るためのジャングルが──。
「いやいや! え!? なんでえ!? 下着は!?」
「下着? 生まれてこの方、下着なんて高価なものは履いたことがない」
「流石に下着くらいは履けよ! ご馳走様です! じゃなく! ええ!? なんで!? 甲冑は!? 甲冑はどこいった!?」
「ワタシの甲冑なら見るも無残な姿になっている」
「わー、本当だ、真っ二つー。じゃないわ! なんで真っ二つ!?」
「王子の剣の腕が良すぎて、甲冑が絶頂した」
「絶頂するのは今の俺の方だわ」
「この貧相な体で絶頂するなんて、王子って童貞?」
「なにか悪いか!?」
「別に」
「なんでそんなに平気なんだよ!? クーデレだから!? クーデレ属性だからか!?」
「裸を見られるなんて大したことではない」
「チューで結婚認定するこの世界じゃ大したことだよ! 神ってんだよ! ちくしょうがっ!」
俺は制服の上を彼女へ被せる。
「べつにいらないのに」
「俺が困るんだよ」
「……ありがとう」
彼女の言葉のあとに、なんだか力がみなぎった気がした。
「え!? 今のはなに!? 女の子の裸を見て俺の股間の高感度が上がっているのか、ルカの好感度が上がってレベルが上がったのか、どっち!?」
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