第30話 やはり好感度。好感度は全てを解決する

『ここで乱入者だああああああ! 乱入して来たのは勇者のみが扱えるとされた雷の魔法でロビンを一撃で葬った黒髪の美少女だああああああ!』


「葬ったとは人聞きが悪いですわね。先程の男性ならばまだ生きていますわよ」


 シャネルの言う通り、ロビンはまだ生きていて闘技場の職員がすぐに回収していった。


「シャネル。一体、なんの真似だ」


「なんだか最近、フィリップ様を見ていると心の底から嫌悪感が出てきてしまいましてね。こんな方と親族かと思うと、いっそ死にたくなりますのよ」


 異常な嫌われ方。


「ですが、わたくし思いつきましたわ。わたくしが死ぬのではなくて──」


 そこでシャネルはレイピアを構えた。


「あなたを殺してしまえば全てが解決すると」


「物騒な解決方法を思いつくなよ」


 シャネルの好感度が最低だとこんなイベントまであんのかよ。


 こちらも黄金の剣を構えた。


「殺して差し上げますわ、フィリップ様」


『決勝戦、フィリップ・バズテック対シャネル・プルミエール、試合開始っ!』


 世界観を破壊するゴングの音と共に試合が開始された。


 相手は同じ勇者シャネル。ラスボスよりも強い中ボスさん。到底、初期後期レベルで勝てる相手ではない。しかし、シャネルの持っている武器が初期装備のレイピアという点から、中ボスの闇堕ち勇者シャネルではない。魔法学園に通うシャネル・プルミエールだと考えると勝てる可能性がある。


「『レイオス』」


 シャネルがレイピアをこちらに向けて呪文を唱えた。


 勇者専用魔法である雷の魔法が放たれる。


 真っすぐこちらに走って来る雷。初級魔法のくせして中級魔法以上の威力を持つから、当たると大ダメージだ。


「っ!」


 なんとかかわしたが。


「『レイオス』『レイオス』『レイオス』」


 3連発で放って来やがる。


「初級魔法だからMP気にしなくて良いもんね! くそっ!!」


 3つの雷が俺に襲いかかる。


 1つ、2つ──3つ目はかわしきれない。このまま当たると大ダメージしか待っていない。ブレイブアンドレアにはジャストガードがあるが、究極に難しく成功したことがない。


だが、ここはやってみるしかない!


「おらあ!」


 3つ目は持っていた黄金の剣で薙ぎ払うように斬ると、雷が真っ二つに割れてくれた。


「おお、初めてのジャストガード」


 ゲームとしては難しかったが、この世界に転生した視点からやるとめちゃくちゃやりやすい。


「なかなかやりますわね。では、これならばどうでしょうか」


 シャネルがレイピアを上から下に振り下ろした。


「『レイオス・レア』」


「おいおい、そりゃ中ボスさんの決め技じゃねーかよ」


 真上を見上げると、晴れているのに雷が落ちて来る。


 一秒で7発の落雷。中ボスさんの決め技の中級魔法。だが、その威力は、火、水、風、土の最上級魔法よりも威力があるという狂った仕様。今の俺がくらうとワンパンで死ぬ。


「なめんな、よっ!」


 豪雨のように降り注ぐ落雷を、ギリギリでかわす。


 何回、何十回、こいつでゲームオーバーになったことか。もう全て見切っている。


「おらあ、くらえ!」


 ギリギリでかわしながら、シャネルに近づいていた。


 魔法を放っているため、無防備な彼女へ俺の脳筋エクスプレス斬り(ただの物理)をおみまいしてやる。


 ザンッ! チャリン!!


「……」


 俺の一撃に怯みもしない。


「あ、そっか、きみ、スーパーアーマー持ちだったね」


「はあ!!」


 怯みもしない彼女から反撃のレイピアが放たれる。


「くっ」


 首元を確実に狙ってきた突きを反射でかわすが、かわしきれすにかすってしまう。


「がはっ……!」


 かすっただけなのに大ダメージが入ってしまい、その場からすぐに間合いを取る。


 初期装備だから物理攻撃力はそんなにないと思って接近戦を持ち掛けたが、この威力はやばいな。


「『レイオス・レア』」


「くそっ」


 距離を取ると上級魔法レベルの落雷を落として来やがる。中級魔法程度のMP消費で上級魔法並だから燃費は抜群。


 落雷を避けれるのは避けれるが、こちらに考える隙を与えてくれない。


 どうする。もう諦めるか? ゲームオーバーにはならないだろ。いや、これはゲームじゃなくて俺が転生した世界だ。人生のゲームオーバーになる可能性もある。


 ちくしょう。カルティエ特化に好感度を上げて他のヒロインに嫌われなかったらこんなことにはならなかったのに……。


 ……エルメスの時も好感度を上げれば闘技場に入れたよな。


 だったら、シャネルも好感度を上げればうまくいくか?


 ええい、このままじゃ落雷で黒焦げになるか、レイピアで串刺しで死ぬかの二択だ。


 かけるしかない。


 俺は落雷を避けながらシャネルに近づいて──。


「シャネル」


 俺はシャネルに抱き着いた。


「なっ!? なにをするのですか!?」


 スーパーアーマー持ちだが、男に急に抱き着かれて怯んでいる。


「俺達は同じ境遇の同士だろ? なんで俺を殺そうとするんだ?」


「そ、それは……」


「悲しいよ。俺は唯一のシャネルの理解者だ。同じ勇者の子孫。同じ境遇、それなのにどうして?」


「……」


「魔物、魔王。それらは怖いけどさ、一番怖いのはシャネルが離れることだ」


「フィリップ、くん……」


「一緒にいてくれるんじゃないのか?」


「……だって、だって……」


 シャネルは泣きだしながら胸の内を語ってくれる。


「あたしだってフィリップくんと仲良ししたいのに、フィリップくん、他の女の子ばっかり見て、あたし、あたし……」


「そんなことないよ。俺はシャネルのこともちゃんと見てる」


「ほんと?」


「ああ、ほんとさ」


 そう言ってシャネルを強く抱きしめた。


「フィリップくん……」


 頷くと、シャネルはレイピアを落とした。


「ごめんなさい、ごめん、なさい……」


 泣きながら謝るシャネルに殺意は感じない。


 どうやら好感度が上がり、俺を殺そうとするのをやめてくれたみたいだ。

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