第29話 闘技場の乱入者って熱いよね

 わああああああ──!!


 円形闘技場に響き渡る観客の歓声。


 闘技場のエントリーを済ませると、速攻で試合が開始される。


『さぁ! 今回の挑戦者は、なんと勇者の子孫でもあるバズテック家の王子、フィリップ・バズテック王子だあああ!!』


 うおおおおおお──!!


 実況の声がなんで聞こえて来るのかは謎だが、いつもプレイしていた時と同じような実況が流れた後にいちいち歓声がわくのは全く同じだな。


『ここまで剣一筋で生きてきたフィリップ王子。ただひたすらに剣を振り続け、自らの道を切り拓いて来た姿はまさに脳筋!』


「やかましわっ」


 わああああああ──!!


『この脳筋勇者王子がどこまで勝ち進めるか、我々で見届けましょう。ここで第一試合ですが、初っ端から乱入者の登場だ!』


 乱入者か。


 乱入者はレアキャラが出て来て、レアアイテムをドロップしてくれる。


 例えばバズテック王妃──フィリップのお母さんとかな。


 フィリップの母親は本編には全く出てこないが、闘技場に出て来た時、めちゃんこ強い。通常攻撃が全体攻撃で2回放ってくる。


 ちなみにフィリップの脳筋は母親譲りだ。


 バズテック王妃が落とすのは思い出のロケット。装備するとHPが自動回復する優れものだ。


 さて、今回の乱入者は誰だろうな。


「さっきはどうも」


「お、お前は……門番?」


 乱入者って、さっき俺とエルメスをコケにしていた門番かよ。


「お前のせいで仕事はなくなり、家内と子供達からも逃げられ散々な目にあった」


「この一瞬で色々ありすぎだろ」


「なにもかもおしまいだ。お前も道連れにしてやる」


 門番が剣を構えた。


「そ、その剣は……」


 おいおい。門番風情が黄金の剣を装備してやがる。


 一応レアアイテム扱い。


 攻撃する度に金が出て来る打ち出の小槌みたいなもの。序盤で出て来たら物語中盤までは使える武器だ。


「いや、剣なんてなんでも良いか」


 俺はロングソードを構えた。


「ワンパンで処してやるよ」


『第一試合! フィリップ王子対門番、試合開始っ!』


 試合開始のゴングが響き渡るあたりに世界観が少し崩れちまうが、気にするな。


 この門番との勝負は初めてだ。


 相手がどれくらい強いかはわからないが、黄金の剣を装備している辺り、門番のレベルは序盤後期程度と予想できる。


 余裕だ。カルティエの好感度を爆上げした俺の敵じゃないだろう。


「いくぞっ!」


 先手必勝。


 カルティエとのイチャラブで培った俺の剣を受けてみよ!


「脳筋エクスプレス斬り(ただの物理)」


 ザンッ!


「うっ!」


「これがイチャラブの力だっ!(ドヤっ)


「ふぃぃ……」


「……あっれ?」


 全力の俺の剣を受けても立っているんですけど。


「ふっ。軽い攻撃だ」


「軽いの?」


「ああ、ティッシュよりも軽い」


「俺とカルティエのイチャラブってティッシュよりも軽いの?」


「次はこちらから行くぞ」


 ザンッ! チャリン!!


「うっ!」


「あれ? 俺の攻撃も軽い?」


「軽いな。次は俺からだ」


 ザンッ!


「次は俺」


 ザンッ! チャリン!!


『な、なんということでしょう! 互いに斬り合っています! ターン制バトルになっております!!』


 ザンッ!


「うっ!」


 ザンッ! チャリン!!


「うっ!」


『この勝負、耐久力の高い方が勝者となりそうです!』


 なんだ、この泥試合。



「はぁはぁ……」


『試合終了! 勝者、フィリップ・バズテック!』


 なんか思ってたのと違う。全然違う。


 いや、そりゃなんとか勝てたけどさ。圧倒的これじゃない感。


 カルティエとのイチャラブでめちゃくちゃレベルが上がったと思ってたから、ワンパンで仕留められると思ってたのに。


 結果としてはロングソードから一気に黄金の剣になったのは大きいが──。



 あ、はい。これ、カルティエの経験値入ってないわ。


 いや、入っていないと言うのは違うかも知れないな。かなり少量の経験値は得ている可能性はあるが、ほぼ0みたいなものと予想する。


 ここまで三回戦って来たが、対戦相手は物語り中盤に出て来る奴等。


 それをなんとかゲーム知識を生かして勝てた感。ここら辺の相手に苦戦してるってことは、今の俺のレベルは中盤初期か……いや、門番のことを考えると序盤後期程度のレベルしかないかもしれない。


 ラスボス先生と対峙した時は、たまたまレベルアップ直前の経験値で、カルティエを褒めたことによりかなり少量の経験値でレベルが上がったって考えるべきだろう。


 これでわかったことは、カルティエの好感度を上げても経験値は入るが、かなり少量ってことだな。


「ま、今は経験値のことは後回しだ」


 次は決勝戦。


 闘技場で負けてもゲームオーバーにはならないが、闘技場で得たアイテムはなくなってしまう。つまり黄金の剣がなくなってしまう。それは避けたいところである。


「低レベルだが、やるっきゃない」


『さあ! ここまで脳筋でやって来たフィリップ王子! いよいよ決勝戦です!! 決勝戦の相手はケープコッドの英雄、ロビンだああ!』


「ロビン、か」


 闘技場に現れたのは、魔術師の格好をしたイケメンのロビン。彼はこの国をなにかしらの脅威から救った英雄として讃えられている。


 強いのは強いが。行動パターンが決まっているからゲーム知識を生かせれば余裕で勝てる。


 この勝負もらった!


「うわあああああああ!」


「!?」


 唐突に雷がロビンを襲い、ロビンはその場で倒れてしまう。


『な、なんだあああああああ!? 美少女が! 美少女が空から降って来たぞおおおおおお!!』


 実況の言葉通り、空から舞い降りて来たのは──。


「シャネル……だと……」


「ご機嫌様。フィリップ様」

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