第28話 門番ざまぁ

「は? なんで入れないんだよ!?」


 ケープコッドの闘技場前で俺の疑問の声がこだました。


「ここは上流貴族様方の集いの場だ。どこの馬の骨かも知らん奴を入れるはずないだろ」


 闘技場の入り口の門番が俺達を門前払いするセリフを吐いた。


「あんま言いたくないけど、俺、王族だかんな? トップレベルの貴族だかんな?」


「王族ぅ? 貴様がぁ? ただの魔法学園の生徒にしか見えんぞ」


「そりゃ俺は魔法学園の生徒だからな」


「はっはっはっ! こりゃ傑作だ。王族が魔法学園なんて場所に通うかよ!」


 この門番めっちゃムカつくー。脳筋エクスプレス斬り(ただの物理)をぶちかましたい。


「おい、エルメスもなんか言ってやれよ」


「え? わた、わたすぅ? えとえと……」


 きょどりながらも、「まじ帰りたい」とか小さく言っている。小声で言われるのも傷つくな。


「つうか門番! 見ろよ! お前んとこの公女様もいんだろ」


「公女様だぁ?」


 門番がマジマジとエルメスを見つめると、「はっはっはっ!」と大きく笑う。


「こんな顔、街で石を投げたら当たるレベルでおるわい!」


「お前、そのうち処されるぞ?」


「あ、あの……もう良いですか? 早く帰りたい……」


「ほらほら、公女様(笑)が帰りたがってるぞ、王族(笑)」


「くっそムカつくな」



「だあああ! なんなんだよ、あいちゅううう!」


 あの門番、まじでムカつく。なんなの? なんなんだよ、あの態度。許さん。絶対に許さん。


 つうか公女様いんじゃん! なんで通さないんだよ! 仕事しろよ!


「あ、あのぉ、もう帰って良いですか? 王子様と一緒にいるところを他の人に見られたら、恥ずかして死にそうなんですが」


「嫌われ過ぎて泣きそう超えて笑いが出てくるわ」


 なんなんだよ。今まで闘技場に入れなかったことも、こんなにヒロインに嫌われたこともないから辛辣だわ!


 ──闘技場に入れなかったのも……ヒロインに嫌われたことも……?


「あ、あの、あんまり見ないでください。吐きそうです」


「俺は汚物かよ」


 そうだ。こんなに嫌われたのは初めてだ。エルメスにこんなに嫌われたのも初めて。


 だったらもしかすると──。


「なぁエルメス。これ、やるよ」


 俺は入学前に雑貨屋で購入したネコちゃんのマグカップを取り出した。


 これはエルメスが欲しそうにしていたやつだ。


「そ、それは!?」


 ゴクリと生唾を飲んでジッとネコちゃんのマグカップを見つめている。


「えっと、そんなに欲しい?」


 コクコクコクと頷く。


「んー。じゃあ、あげる」


「い、良いんですか!?」


「俺は使う予定もないからな」


 カルティエにあげなくてもあいつの好感度はゴリゴリに上がっているからな。


「あ、ああ、あ、ありがとうございます!」


 何度もぺこぺことして、ネコちゃんのマグカップを手に取ると、うっとりとした様子でネコちゃんのマグカップを眺めていた。


「それでさ、エルメス。代わりって言うのもなんだが、闘技場に入れる様にお願いしてくれない?」


「も、もちのろーんです!」


 好感度が上がったのか、昭和のおっさんみたいな返事をしてくれる。


「ささっ、行きましょう、王子様」



「お、王族(笑)と公女(笑)じゃねぇか。なんだ? まだなんか用か?」


 門番がヘラヘラとした様子で俺達を門前払いする。


「王族(笑)と公女(笑)は入れませーん。さっさと消えろ」


「良い加減にしなさい」


 小さく言ってのけるエルメスに対し、門番が、「あ?」と反抗するが、エルメスがキリッと睨み付ける。


「良い加減にしなさいと申しておるのです。このお方はバズテック王家のフィリップ・バズテック王子ですよ? それが王族に対する態度ですか? ええ?」


「え、えと、あの……」


「それに、わたしに対する態度もなっておりません。わたしを侮辱するということはケープコッド家を侮辱する行為。あなたはクビです、今すぐに出て行きなさい」


 さっきの態度がウソみたいに凛とした様子でクビを宣言するエルメス。


「す、す、すみませんでしたー!!」


 門番がその場で土下座をするのを無視して、エルメスが先を歩くので俺も後に続く。


「……ぐぎぎ」


「いや、俺を睨むなよ」


 なんで俺が睨まれてんだよ、と思いながら闘技場の入り口に入る。


「しかし、うまいこといったな」


 入り口に入り、安堵の息が漏れた。


 まさかエルメスの好感度が最低だと闘技場が使えない仕様とは思いもしなかったな。


 ネコちゃんのマグカップを持っていて良かったぁ。


「ふ、ふぃ」


 エルメスもため息を吐くと、自分の胸に手を置いた。


「あ、あんな大胆なことを言ったのは初めてです」


「エルメスなら、普段からあれくらいの態度でちょうど良いくらいだよ」


「さ、流石に普段使いはちょっと……」


「なにより、闘技場に入れて良かったよ。ありがとう、エルメス」


「いえいえ。そういえば、王子様は闘技場の見学に来たのですか? それとも出場?」

「出場したいと思う」


「そうなんですね。わたし、応援します!」


 さっきまでの好感度最低がウソみたいに、拳を作って応援してくれる。


 ネコちゃんのマグカップの好感度アップは相当みたいだな。

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