第18話 四天王と杖の争奪戦②

 四天王と杖の争奪戦は白熱のバトルが繰り広げられている。


 土煙の中ではカルティエ対ルカ&ティファニーの激しい攻防が繰り広げられている。カルティエの好感度なら四天王相手でも大丈夫だろう。


 土煙の外では、シャネルとクロノスによるレイピア使い同士の戦いが繰り広げられている。まだ双子と確定したわけではないけれど、あれが双子同士の戦いって思うと熱過ぎるよね。


 しかし、魔法学園とは? と疑問に思う現場だよな。ま、気にしたら負けか……。


「エルメス」


 俺は大魔法使いの杖をエルメスに投げ渡した。


「こいつを持ってあのロン毛野郎に目にもの見せてやろうぜ」


 元々はこいつの固有武器だし、なによりも俺達をコケにしているラスボス先生へ見せびらかすのは彼女からが良いだろう。


「は、はい」


「さっ、行くぞ」


 混乱に乗じて俺とエルメスがエレベーターに乗ろうとしたところで──。


「『パラライズショック』」


「うっ!」


 状態異常の一種である麻痺の魔法が俺にかけられた。


 俺ってば脳筋だから状態異常にかかりやすいんだよね。


「フィリップ王子ぃ……」


 黄緑色の甲冑を着た状態異常さんこと、ハイネがこちらによろよろとやって来る。


「よくも、よくもよくも──」


 ハイネの目が徐々に見開いていく。


「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもおおお!」


 やべぇ。こいつの目、逝ってやがる。


「お、俺が、な、なんかしたか?」


 麻痺の状態異常にかかっているため、拙い喋り方になってしまう。加えて体が上手く動かせない。相変わらず麻痺ってのは面倒な状態異常だ。


「フィリップ王子がボクと組んでくれないから、ボクはずっと仲裁役なんだ……板挟みなんだ!」


「完全、に、八つ当たり、では?」


「ずっとずっとずっとボクは言いたいことを抑え、ずっと聞き手に回って、媚びへつらって……」


「言いたいことが言えないこの世の中は?」


「『ポイズン』」


「やめろおおおお! 世代がバレりゅううう! 微妙に歌詞変えたけど色々とやばいいいい!」


 頭からポイズンをくらって麻痺プラス毒状態になった。


「ボクのグローリーでタフなオイリーを受けてみろ!」


グローリーでタフなオイリーってか! 無理矢理そっちに寄せるなあ! つうか、全部の英単語に無理があんだろうがっ!」


 とか言うてる場合じゃないな。


 状態異常さんのポイズンは本当にやばい。


 普通の毒とは比べ物にならないくらいHPがゴリゴリ減っていく。


「あ、ぐふっ! やっべっ!!」


 口から血が吹き出て来やがる。加えての麻痺で動けない。


 これ、このままだったら死ぬな。まじで。


「フィリップ王子が悪いんだ。フィリップ王子がボクと組んでくれればこんなことにはならなかったんだ!」


「こえーよ。ヤンデレかよ。男のヤンデレは怖すぎるんよ」


「『ブルーアース』」


 こちらの絶望に対し、エルメスが俺に杖を振りかざした。


 これは状態異常も治してHPも回復するエルメスの固有魔法。


「だ、だだ、大丈夫ですか? 王子様」


「ありがとう。助かったよ」


 エルメスにお礼を言ってハイネの方を見ると、酷く驚いた顔をしていた。


「な、なんだ? 今の魔法はなんなんだ?」


 エルメスの固有魔法だから状態異常さんが知らなくても無理はないか。


 ブルーアースは母なる大地より癒しの力を与える、みたいな説明があったような気がする。


 状態異常プラス回復の便利魔法くらいにしか考えてなかったな。


「ど、どうして成績ブービーのエルメスがボクの魔法を打ち消せるんだ!?」


 ブービーってことは最下位より一つ上の順位だよね? あれ? もしかして俺が最下位なの? エルメスと俺の同率最下位ではなく?


「た、確かに、わた、わたしの成績はブービーです。魔法の勉強とか、全然わかんないです」


 エルメスも最下位ではないと言っているんですけども。俺が最下位確定なんですけども。


「ただ、星が大好きなだけです!」


 エルメスが天に向かって杖を突き上げた。


「『ミーティア』」


 彼女が魔法を唱えると天空より流星群が大魔法使いの塔に降り注いだ。


 ドゴドゴドゴオオオオオオオ──!


 あー、流石はゲーム世界。こんだけ強力な流星群が降り注いでも塔はビクともしてねぇな。リアルなら崩壊もんだろうに。


 しかし、この場にいる四天王には効いているみたいだ。


「よし、今のうちにエレベーターで降りるぞ!」


「は、はい」



 俺達はエレベーターですぐさま塔の前で待機していたラスボス先生のところへと戻って来た。


 ラスボス先生はエルメスが持っている大魔法使いの杖を見て目を疑ったかのような顔で見ていた。


「エルメス。お前から言ってやれよ」


 そう言ってやると、オドオドしながらエルメスは先生へ大魔法使いの杖を渡した。


「わ、わた、わたし達が、つ、杖を取って来まひた!!」


 最後の最後で噛むのは、やはりエルメスらしい。


「うむ……」


 あっれ、ラスボス先生。なんでそんな穏やかな顔をしているんですか? らしくないっすよ。


「よくやったエルメス。これはお前のものだ」


「へ?」


「この杖はアルコル大公からお前への入学祝いだと聞いている。もし、この杖を取って来れなかった場合、エルメスの能力はそれまで。他の者の物にしようとお考えだったみたいだが、お前は見事に成し遂げた。入学祝いとして取っとけ」


「は、はい!」


 これってもしかして……。


「先生はエルメスにこの杖を取って来て欲しくてわざとコンプラアウト発言を?」


「ふん。こんぷらあうとがよくわからんが、エルメスには取って来て欲しかったからな。少々口が悪くなってしまったようである」


 えー、ラスボスなのにちょっと良い人なんだなー。


「お前もよくやったな。ゴミカス王子」


 あ、やっぱりこれは天性のコンプラアウトおじさんだわ。間違いない。


「これにて実習は終了だ」


 先生は右手を水平に振りかざしてみせると、目の前に一年G組の生徒達が目の前に現れた。


「お前達。今回の実習はエルメスの班の優勝だっ! 拍手を送れ!」


 パチパチパチパチ──!!


 エルメスへ賞賛の拍手が送られて、彼女は少し気恥ずかしそうに前髪で顔を隠していた。

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