第17話 四天王と杖の争奪戦①

 大魔法使いの杖を取ると、目の前に四天王が現れた。


「ふんっ。どうやったか知らんが、面白いじゃないか」


 黒の甲冑に身を包んだ裏ボスさんこと、クロノスが前髪をふさぁとかき分けて俺の方を指差す。


「この実習は、《大魔法使いの杖》を持ち帰ること。なにをしてでも良いということだったな。覚悟しろ、ボンボン王子」


「いつの間に俺のあだ名ってボンボン王子になってんだ?」


「行くぞっ!」


 こちらの言葉を無視し、クロノスはレイピアを取り出して襲いかかって来る。


「はっ!!」


 キンッ!


 俺とクロノスの間に割って入ったシャネルが、クロノスのレイピアを受け止めてくれた。


「フィリップ様。ここはわたくしに任せ、えれべえたあで先に行ってください」


「ほぅ。やるではないか、シャネル・プルミエール。しかし、これはどうだ?」


 クロノスの素早い剣撃がシャネルに襲いかかる。


 まるで閃光のように速い剣撃を、シャネルはレイピアで対応してみせた。


 裏ボスさんの剣撃に対応できるなんて、やっぱシャネルの好感度は高いんだね。


「ふふ。クロノス様こそ。そこそこやるようですわね」


「そこそこか。では、少し本気を出させてもらうとしよう」


 双子疑惑のふたりがレイピアで戦うとか、すげー激アツ展開なんですけど。


 とか、傍観者気取ってる場合じゃねぇな。


「任せたぞ、シャネル」


「はい。任されました」


 クロノスはシャネルに任せることにし、俺はえれべえたあの方へと走り出す。


「逃がさない」


「そりゃそうですよね」


 水色の甲冑を来たクールな四天王、ルカに回り込まれてしまう。


「その杖を置いていけば痛い目は見ないで済む」


 そう言いながらルカの固有武器であるツバメの剣を構える。


「落ち着けよルカ」


「落ち着いている」


「俺達は魔法学園の生徒だ」


「ワタシ達は魔法学園の生徒。それがなに?」


「なんでさっきから剣がやたらと出てくんだよ」


「……」


「おかしくない? 魔法学園編なのに剣ばっかじゃん。魔法が全然出てこないじゃん」


「……確かに」


 あら? 案外バカな子なのかな?


「でしょーよー」


「一理ある」


「魔法学園の生徒たるもの、魔法を使わないといけんよ」


「王子の意見はもっとも」


 そう言ってルカはツバメの剣をしまった。


 あ、この子はクールぶってるバカだわ。間違いない。


「『グラビティプレス』」


「おっ! もっ!」


 魔法が唱えられると共に真上から押し潰される感覚が俺を襲った。


 この感覚はお相撲さんを急におんぶした感覚に近い。いや、お相撲さんをおんぶしたことなんてないんだけども。


「あんたバカ? あいつの口車に乗せられてるんじゃないわよ」


 橙色の甲冑を着た王道ツンデレさんことティファニーがルカに言いよる。


「ワタシ、バカじゃない。バカって言ってる方がバカ」


「はあ? あんたの方がバカでしょ! バーカ、バーカ」


 四天王が小学生みたいな言い合いしてる。


「いや、しかし良い。良いよティファニー。うんうん。これこそ魔法学園編って感じだ」


 ちゃんと魔法で攻撃してくるところとかすごく良い。つい、パチパチと拍手を送っちゃうね。


「ちょっとあんた。なんでアタシの魔法が発動してる中で普通でいられるのよ」


「普通じゃないわい。やたら体が重いわ」


「いや、骨を砕くレベルのを唱えたのよ」


「こえーよ。実習で骨を砕こうとすんなよ」


 マジレスすると、元々の防御力の高さに加えてカルティエとシャネルの好感度が高い分、俺のレベルも上がってるってこったろう。だから耐えられているんだろうね。


「つうか、ツンデレさんとクーデレさんやい。そんな言い合いをしている暇はあんのかね?」


「「え?」」


「はあああ!!」


 ふたりの真上から滑空してきたのは、殺戮の刀を持った専属メイドのカルティエだ。


 ドガァァァァン──!


 刀で攻撃したとは思えない地響きと土煙が現場に舞う。


「ご主人様。このふたりは任せて行ってください」


「流石は俺の専属メイド様」


「ご褒美は膝枕で良いです」


「おっけー。なんぼでもしてやらあ」


 カルティエに感謝を捧げ、俺はエレベーターの方へと駆け出した。


「『パラライズショック』」


「うっ!」


 状態異常の一種である麻痺の魔法が俺にかけられた。


 俺ってば脳筋だから状態異常にかかりやすいんだよね。

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