第16話 これは不正ではない。知恵の勝利なのだよ

「あー、このダンジョンね」


 俺達一年G組がダンジョン実習のためにやって来たダンジョンは、《大魔法使いの塔》であった。


 エルメスを仲間にしたあと、最初に立ち寄るダンジョンだ。ここの最上階にはエルメス用の武器である、《大魔法使いの杖》が置いてある。


 性能は正直微妙な杖。次の街の武器屋の方が強い武器が売っている。


 一応説明として、『大魔法使いアルコル・ケープコッドが愛用していた杖』とある。


 これさぁ、なんかエルメスと父親とのイベントでもあれば意識が変わったけど、なんもないからなぁ。ここに物語があれば終盤まで思い出補正として使うプレイヤーも現れたかもしれないんだけどね。総評としては微妙な杖で終わっている。


「今回の実習の目的は大魔法使いのダンジョンにて大魔法使いの杖を持ち帰ることだ」


 ダンジョンの塔の前でラスボス先生が俺達生徒に今回の実習目的を説明してくれる。


「大魔法使いの杖はこの塔の頂上にてお前達を待っているだろう。最初に手をするのは誰だ? お前だっ!」


 なんかラスボス先生がMC風な説明口調になっているんだけど。


「だが油断するな。あくまでもこの場に持って来たものが大魔法使いの杖の所持者だ」


 つまり!


「大魔法使いの杖の争奪戦だ! 奪え! 奪還しろ! 巡り合う戦いの果てに待つのはお前達の成長だ! さぁ! 実習の開始だっ!」


 うおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!


 まんまとラスボス先生のMCに乗せられた一年G組の生徒達が塔の中へと入って行った。


「ふんっ。ゴミクズパーティには荷が重い実習だが、お前らが杖を持って帰らなければ地獄の雷を受けることとなる」


「ほんじゃ俺たちはその雷を受けることはないな。俺達が持って帰るから」


「ほぅ。抜かしよる。ならば証明せよ」


「ああ──行くぞ、みんなっ!」


 おおー!


 俺達も塔へ向かった。



「それでご主人様。勢い良く塔の中に入って行ったというのに入り口付近の壁に向かって何をしているんですか? バグですか?」


「お前がバグとか言うな」


 カルティエにバグとか言われちゃった。


「フィリップ様。わたくし達は最後尾です。そんな壁で遊んでいる暇はないかと思うのですが」


 シャネルはエルメスがいるからか、初期の口調に戻っていた。俺達3人だけの時しか砕けない口調を徹底しているみたいだ。


「王子様……」


 エルメスも心配そうな眼差しでこちらを見てくる。それは、頭大丈夫かよっていう心配のように見えた。


「ちょっと待ってろっての」


 俺が入り口横にある壁に向かってノックを連打しているのは決してバグったわけではない。


 さっきから重く低い音を奏でるノックの音に、女子達が嫌気を差したところで、コンコンと軽く高い音が響いた。


「ビンゴ」


 やっぱりあった。


 俺はロングソードを手に取り、脳筋よろしく、壁に向かって攻撃した。


「はあ!」


 ガシャアアン!


「「「!?」」」


 壁の向こう側に現れた部屋を見て、女子連中が驚きの顔をした。


「なんですか? これ」


 カルティエが部屋の中にある機械チックなものを物珍しい目で見ている。


「エレベーターだな。工事用の」


「えれべえたあ?」


「そうだな……ま、簡単に言えばこれに乗れば簡単に頂上まで行けるって魂胆だ」


 1週目、大魔法使いの杖を取ると、帰りにエレベーターがあるのをシステムが教えてくれる。それで2週目以降は楽に大魔法の杖の回収ができる。


 汚い? ふっ、知恵の勝利と言ってくれたまえ。


「こんな仕掛けに気がつくなんて、流石はマイご主人様」


「かっこいいです、フィリップ様」


「しゅごしゅぎるぅ」


「見事な手のひら返しに驚きを隠せない。ほら、乗った、乗った。あ、誰か真ん中の玉に触れてくれるか?」


 俺の指示にカルティエが玉に触れてくれる。


 このエレベーターはファンタジー世界らしく魔力で動くみたい。脳筋の俺には動かせないんだよね。


 エレベーターが、グングンと上に昇っていく。


「ほら見ろ。他の生徒が必死に塔を昇っておるわ。愉快だの、あーひゃひゃひゃ」


 ところどころで見える塔の様子に笑いが止まらない。


「フィリップ様。完全に物語中盤でやられる悪役の中ボスになっておられますよ」


「シャネル。お前だけには絶対に言われたくない」


 チンっとエレベーターが頂上に到着する。


 頂上はだだっ広い部屋に祭壇がある。そこに神秘的な輝きを放つ大魔法使いの杖が置いてあった。


 豪勢にまつられてキラキラ輝いている割には性能は微妙なんだよな。


 鼻で笑いながら俺は大魔法使いの杖を手に取る。


「これを先生に渡せば実習は終了だな」


 呆気ない幕切れ。


 ま、実習だし簡単な方が良いだろう。


 エレベーターに乗って帰ろうとしたところで、正面の方から4人の影が見える。


「は? なんであんた達が先にいんのよ!」


「ワタシ達が一番のはず」


「ふんっ。どうやったか知らんが、面白いじゃないか」


「もう中間管理職は嫌だ。仲裁嫌い。わがまま言いたい──ぶつぶつぶつ」


 魔王配下の四天王が現れた。


「そう簡単にはいかないみたいだな」

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