第三勢力
後ろにいるエピンスの方向から機械生物の咆哮が聞こえる。
その方向に目を向けても暗くて私には何も見えない。
こういう時、身軽さを保つため装備を極力避けてしまう自分を呪う。
現れるはずのなかった第三者。
偵察で移動経路の前後は入念に確認した。あんな音が出せるほどの大きさのある機械生物はどこにもいなかったし、そんな気配も痕跡も無かった。
何かがおかしい…
記憶を辿り逡巡していると目線の先にある木々の枝に赤い光がチカチカと点灯する。
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(ようすをみる)
私を見てるであろうエピンスにピースサインを送り、林冠に身を隠し下の様子を上から見る。
下には護衛を失ったクマが注意深く音の鳴った方角を凝視している
そのまま暫く時間が止まったかのような静寂が森を包み込む。
その中で小さく聞こえていたリズミカルな音が足音がだんだん大きくなっていく。
クマはついに後ろ足で立ち上がり、その巨体を前のめりに倒れ込むと大きな咆哮をあげた。
あまりの音の大きさに思わず耳を塞いでしまう。同時に大きな振動が地面から木々に伝わっていき、私の足場を大きく揺らす。
-やばっ
折りたたんでた義足の膝の弾力が弱く、バランスが崩れる。
このまま義足の繊維を切らさずにバランスを取り戻すのは無理だが、大丈夫だ。そう自分に言い聞かせ、一旦深呼吸をしながら大人しく重力に身を任せ下に落ちる。
すぐに目を配り次の足場を探す。真下で何が起こったのか分からない今、優先すべきは着実にフックリールが固定でき、すぐに飛びつける場所だ。一番近い木の樹冠のギリギリ下を狙い、フックリールを射出し安全を確保する。
飛びついた太めの枝に義足の踵をリズミカルに叩き踏むと、底から針が突出し樹木に刺さる。これでそれなりの衝撃を受けても簡単に落ちることは無いだろう。
下を見ると、そこには見たことのない光景が待っていた。
クマの体が数多のツノらしき何かに串刺しになっていた。頑丈なクマは低く唸りながらも躊躇なくソイツに殴りかかっていた。
あれの源生物は一体…?
しっかりとした低めの重心を持つ狼のような見た目を持ち、鹿のように枝分かれした立派な角を頭から生やしている…。動物好きなエピンスなら知っているかもしれないが、私は必須教習と任務で見た動物しか識別できない。あれはその中に含まれている動物ではないこと以外私には分からない。
にしても機械生物同士の争いー
無い話ではない。でも大型と中型の争いはかなり異質...っていうかあり得ない話だ。機械生物は基本合理的に行動する習性を持つ。だからこそ分かりやすいリスクは絶対に取らない。更に大型は自分を中心にして縄張り内に特殊な電波を流し、周りに自身の存在をアピールすることで近くの中型や小型に牽制をかけると技医師が言っていた。
それを無視して中型が単体でスペックが一回りも二回りも上な大型に挑むのは誰がどう考えても自殺行為だ。実際身体中にツノが突き刺さってるとはいえ、クマの方が優勢である事は誰がどう見ても一目瞭然だ。突進してからのソイツは何も出来ないのか、身動きせずにただただ唸っている。クマはその太い腕と鉤爪で我武者羅に敵を引っ掻き続け、中型はかなりの傷を負っているように見える。
これはチャンスだ。
この際バグでもなんでもいい、こんなにも美味しい機会を逃すものか。既にクマの額には照準を示す赤点がずっと点滅していた。どうやら
狩り、続行ね。
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our haven 綿 @watairi
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