過去夢
ほぼいつも通りの夕方、ほぼいつも通りの特等隊員用の準備控室。
最近噂で戦争を終わらせる計画が進んでると聞き、非番だった私とエピンスは決戦に備え装備や戦術の確認を行うためにミーティングをしていた。
私のダガーの予備もこの間の出動でだいぶ減ってしまった。そろそろ備品管理課に申請を出さないと行けない…が申請書を下位の隊員にあげたばかりで今手持ちに無い。
「エピンス、装備申請の書類って余ってる?」
「あるよー。ちょっと待っててね」
隊服に似合わないあのピンクのスカーフを首に巻きへらへらと笑いながらカバンを漁るエピンス。この人には緊張感という概念が無いのか?
今朝、ツェフが呼び出されてから拭い切れない嫌な予感にずっとソワソワしているというのにエピンスときたら遅刻するわID忘れてくるわでとことんマイペースな行動ばかり。肝心のツェフはいつもならもう戻ってきて顔を出すはずなのに昼を過ぎてもまだ戻ってこない...
最近の疲れが出てるのか、お昼ご飯を食べすぎたのかやたら目も霞む。目を擦りながらエピンスが差し出す書類を受け取ると、警報が突如鳴りだした。
すぐさまに立ち上がり、モニターを注視すると警報内容が放送された。
<<CODE E000Z>>、<<CODE E000Z>>
見たことのない警報だ…プロトコルが分からない場合はとりあえず集会所に行くことが決まっている。
私はすぐにホルスターを付け、部屋を出た。エピンスもライフルを下げ、カバン片手に後ろに続いた。他の控室からも隊員が次々と出てきて集会所に向かう。
ツェフは大丈夫なのかな...
ふとそう思った途端、大きく轟く音とともに視界が揺らぐ。
―視界が揺らぐ...?
いや、空間そのものが歪んでいる…
「ニッサ!!」
名前を呼ばれ後ろを見ると他の人や壁のように歪んでいないエピンスがそこに立っていた。
でも立っている地面もが歪みだし、足場が崩れる。
不安から咄嗟に手をエピンスに差し出すと、エピンスも手を伸ばし握り返してくれた。
そのままお互いを引き合い強く抱きしめると、そのまま意識が遠のいていった―
―――
目が覚めると、そこにはここ数年で見慣れた景色が広がっていた。
糞不味い煙草を吸う相棒と、どこまでも広がる機械樹の海。
「おはよう」
膝枕を借りていた私が体を起こせるようにエピンスが腕をどける。
「おはよ」
布団替わりにしていたスタジャンを肩にかけ、買い出しの時に購入したお菓子を荷車から取り出す。
「私、どのくらい寝てた?」
「
「時間単位煙草で数えるのやめよ?」
呆れてエピンスから葉巻を取り上げ、灰皿代わりの鉄のブロックに擦り付ける。煙が最後の細い弧を描くと、そのまま風にかき消されていった。一本一時間かかる葉巻が四本…つまり四時間弱眠っていたことになる。
四時間分見た後味の悪い過去の夢に私の頭は悲鳴を上げていた。痛みを耐えながらも目を瞑り、頭を軽く抑えるとエピンスが背中を軽くさすってくれる。
「大丈夫?」
「…あの日の夢を見たの」
エピンスが一瞬手を止める。そしてまた優しく背中をさすってくれた。
「そっか」
そのままお互い何も言わずに静かに荷車の上に揺られながら移動を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます