リッターニア市街―。


俺たちの知る限りの唯一の市街地であり、道という道に人々が歩き回る活気に溢れた街。

ここだけでは子供たちが大声で笑い、大人たちは他愛の無い会話をしながら無為に時間を過ごして生きる。皆が幸せそうに暮らす街、リッターニア。


俺はその平べったい幸せに身を包む輩が苦手だ。


彼らは忘れてしまっている、かつての世界の現実を。

彼らは忘れてしまっている、あの世界での日々を。

彼らは忘れてしまっているー。


「エピンスー、ただいまー」


物思いにふけていたら煙草がもうほぼほぼ燃え切っていた。ニッサは俺が煙草を捨てる所を見てしかめっ面になる。その無言の抗議を無視して荷運びを手伝う。


物資の流通が多いリッターニアは必要品の調達が楽だ。おまけに旅の途中で採集した素材も売れるため、俺たちは度々この街に訪れる。


「買い出しはこれで全部か?」


ニッサは買い物を確認し、ワゴン機械荷車に乗せていながら。


「んー、レーション携帯食料はこれで当面は大丈夫だけど、やっぱりこいつのパーツは売って無かったよ」


残念そうにニッサは義足の膝を軽く撫でる。膝の上下の関節を繋ぎバネとして動く伸縮性の高い特殊金属繊維が磨耗し、そろそろ替えを見つけなければ繊維がはち切れてニッサの義足は使い物にならなくなってしまう。


「外の大型機械生物ビースト狩り、リッターニアではする人がもう殆どいなくて入荷も滅多にないんだって言ってた」


金属繊維は基本的に大型機械生物の筋肉からしか採れない。需要が少ない上にかなり危険な狩りであるがために挑む人も少ない。平和なリッターニアだと機械生物からの襲撃なんてあったとしても小物の群れが来る程度だろう。


それなら―。


「それならが壊れきっちゃう前に私たちで狩らなきゃね」


そう言うとニッサは最後の買い物袋をこっちに向けて投げる。袋を開けると中には大小様々な弾薬と多種類の手榴弾がパンパンに詰まっていた。


一歩間違えれば結構な規模の爆発が起きてもおかしくない量を…


「普通こういうのって一袋にまとめて投げるもんじゃないんだけど」


「その程度でくたばるんじゃ大型なんて狩れないよー」


ニッサはそう軽快に言いながらワゴンに飛び乗り、気合を見せ付けるかのように自分の短剣を次々メンテしていく。


…ただその手つきはいつもよりちょっとだけ弱く、震えている。


本当、強がりだなぁ。

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